第10話心は人であるのだと

 冬休みを迎えた学生たちが、騒ぎながら駅前の通りを歩いていく。

 年越しはどうするかで盛り上がっている者が大半だが、浮かない顔をしている学生がいた。

 並んで歩道を歩いている男女。

 女子は松葉杖をついためい菜だ。

 雰囲気からして男子は彼氏のようだった。

 先ほどから学園長の息子について話し合っている。

「あいつ絶対薬やってるって」

「そうなのかなあ」

「入学した時に騒動起こしただろ? その後も何度か騒ぎ起こしたって言ってたし、けど、目つきがもっとやばくなったぞ」

 彼は心配してくれているから、大げさに話しているのだろうか。

 めい菜は自分の身の事であるのにどこか上の空だ。

「とにかく、もう絶対一人で帰るなよ。必ず俺を呼べ」

「ひろくんありがとう。でももう、部活で遅くなることはないし」

「……」

 彼氏の視線はめい菜の足に向けられる。

 手術してももう走る事はできない。

 こんな目にあわせた、あいつを殴っても奇跡は起こらない。

 唇を噛みしめた。


 めい菜と分かれた後、コンビニに寄ろうと、その自動ドアをくぐろうとしたタイミングで、スマートホンに着信があり、通話に応じようとしたが非通知である。

 訝しげに通話に応じる。

「もしもし。どなたですか」

『あら。出てくれたのね。私のこと知ってるかしら』

「……いたずらなら切りますよ」

『待って待って。新田博巳(にったひろみ)くん』

 名前を呼ばれて通話を切ろうとした指が制止した。

 相手の息づかいが楽しそうに弾む。

 少しの間の後、相手はようやく名乗った。

『あなたと同じ学園に通っている2ーBの千野桜苺よ』

「え」

 その名前はついこの間彼女から聞いていたので、目を丸くした。

 なんでも昼休みに屋上で話しかけてきて足の事を話したらしい。

 めい菜が、あんな綺麗な子が同学年にいるなんて知らなかったと、嘆息していたのを覚えている。

 博巳は慎重に言葉を選んで聞き返す。

「何で俺の携帯番号を知っているのか聞いてもいいかな」

『簡単に調べられるわよそんなこと』

 呆れたというような口振りに博巳はむっとして言葉に棘を含ませる。

「勝手に個人情報を調べて連絡をしてくるなんて、非常識だろう」

『まあそれについてはごめんなさい。ただね、貴方にとっても悪い話じゃないと思うの』

「?」

 疑問を口にする前に桜苺から声が返ってくる。

『かわいい彼女の為に一肌脱がない?』

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