私はイジメっ子である
久保良文
無限ループ
私は極悪非道なイジメっ子である。
べつに言い訳なんてしない。
イジメた相手は元『親友』だった奴だ。
と言っても、私は彼女をそう思ったことは一度もない。勝手にあいつが「私たちは親友だよね」とか世迷い
今日、登校すると彼女から
そして私の側を通りすぎる際に「絶対に許さないから……」という言葉を受ける。あいつはそんなことを言うためだけにワザワザ席を立って廊下へと出ていったらしい。まったくもってヒマな奴だ、笑える。
気を取り直して教室を見渡すと、雰囲気は最悪だった。
誰も彼もが私のことを
正義感から私を
いろんな感情があったが、そのどれもがウザったいと思える。
この教室には私の居場所なんてなかった。
お昼休み。
居心地の悪い教室から逃げるようにして、校舎の中庭でお弁当を食べていると、近くにいる学生たちから『私の陰口』が聞こえてくる。いや……明らかに聞こえるように言っているのだから陰口ではなくただの『悪口』か。
「人をイジメておいて、まだ学校に来るなんて考えられないよね」
「本当にそう、気分悪い。他の三人みたいに転校すればいいのにねー」
下級生、か……。
ということはあいつと親しい
なんというか安っぽいプライドだな。そのくせ自分の口からは「私はイジメられてたから、人の痛みが理解できるの」なんて言っているというのだから笑える。
──イジメられ自慢がしたいのか、したくないのかどっちだよ。
放課後になったならば即座に帰宅する。
当たり前だ。誰がこんな針の
私は帰宅するとベットの上に横になった。
することもないのでスマホを
目的という目的はなかったのだが、とある投稿を見つけて、私はその文言から目が離せなくなった。
『イジメってイジメられる奴にも問題があるんじゃないでしょうか?』
そんな質問の言葉であった。
返答はもちろん──
『そんなわけがあるもんか、ふざけんなっ!!』
『イジメられて苦しい人に対して、どうしてそんな酷いことが言えるんです? 信じられない。あなたを軽蔑します』
『イジメをする奴はすぐにそんなことを言うよな。自分がイジメをしている認識がないんだろうな。まじで氏ね』
私は吐き気が堪えきれなくなって、少し吐いた。
トイレから戻って、スマホの画面を見る。さっきよりもまた一段と酷いことになっていた。もうこれ以上、見る気にはならない。私は質問者へと肯定的な『イイネ』を送ると、そのまま目を
──ああ、どうして。こんなことになってしまったのだろう?
⚫︎
すこし昔の夢を見た。
その日もあいつは、いつもの三人にイジメられていて、見るに見かねて私が
「やめてくんない? 見ていて気分が悪いのよ」
すると三人はスゴスゴと引き下がった。なんというか卑屈な奴らだった。自分よりも弱い相手にしか強く出れない。そんな奴らに怯える必要なんてないのだから「もっと堂々としていればいい」と、私は彼女に言う。
「うん、ごめんね……」
そこでなんで謝罪の言葉が出てくるのか。
私は彼女に「もうイジメの証拠はそろってるんだから、早くチクっちゃいなさいよ」と助言するも彼女は首を振る。イジイジしている態度にヤキモキしてしまうが、彼女が望まないのに私が状況を引っ掻きまわすわけにはいかない。
その日の帰り道のことだった。
河川敷の茂みの奥で、隠れるようにして彼女が何かをしていた。その時、私は嫌な予感がして、彼女へと近寄った。声をかけずに、後ろからソッと。
あいつは子猫をイジメていた。
痛い痛いと泣いているカヨワイ子猫を。
「あんた……! 何やってんのよっ!!」
私が怒鳴るとあいつは驚いた顔をしていた。
そしてシドロモドロに「これは違う」と言い訳をしていた。
その態度に私は頭にきて言ってしまった。
「見損なったわ……弱いものイジメなんて──結局、あんたもあの三人と一緒じゃない。助けるんじゃなかったわ」
その時のあいつの顔を、私は忘れられない。
それは信頼していた相手からひどく裏切られたかのように。
深く傷つけられて絶望に染まった顔をしていた。
──
あいつが「自分はイジメられている。首謀者はクラスメイト四人だ」と言い出したのは、その翌週のことだった。
⚫︎
ハッと目が覚めた。
寝汗がひどくて気持ち悪い。
さっきの夢を思い返す。
まあ……あいつが私に「裏切られた」と思ったことは間違いないのだろう。
あえてあいつの立場を考えてみると、もう精神的にギリギリだったのだ。それこそ自分よりも弱い立場のモノを作らないとやっていけないほどに……
そして私はそんな彼女の心情に気づいていなかった。結局、私は「弱いモノイジメ」が嫌いなだけで「彼女を救おう」なんて考えは微塵も持ち合わせていなかったのだろう。
言い訳をする気はない。
あれから幾度となく思考を繰り返したが、私は彼女の友人であろうとするよりも、自身が正しくあろうとすることを優先していたことは間違いなかった。
それをあいつがイジメだと感じたのなら、否定することが私にはできない。いじめとは相手が「イジメられた」と感じればそれで成立するのだから。
時計を見るともう深夜である。
夕飯も食べずに寝てしまった。
私はヨロヨロとした足取りでリビングに向かう。するとテーブルの上に書き置きと夕食の支度が整っていたことに驚いた。
『もし、夜中に目が覚めたのなら。食べなさい』
そして、何かのっぴきならない不安を抱えているのなら、遠慮せずに自分を起こせと、書き置きには書かれていた。
それは母の字だった。
今回の件で、周りの誰もが信じてくれなくとも「絶対に我が子の言うことを信じる」と言ってくれた母だ。
自然と涙が出た。
だから私は泣きながらにご飯を食べた。
すると今まで必死に抑えつけてきた『想い』がとめどなく溢れてくる。
──イジメなんて、私……そんなことしていないっ……するわけないっ!!
──負けるもんか……絶対に負けてなんてやるもんか……!!
⚫︎
翌日のホームルームで、教壇に立つと担任教師がこう言った。
「昨年のことだが、我が校の生徒が河川敷の子猫を虐待していたと通報があった。事情を知っている者はなんでもいい、教えてくれ」
あいつを見る。あからさまに真っ青な顔をしていた。
私は
私はイジメっ子である 久保良文 @k-yoshihumi
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