お花見
@381
お花見
「お花見したいな」
「えっ?」
部活終わり、私はいつものように先輩と些細なことばかり話しながら帰っていた。しかし共通の話題は学校関連のものしかないから会話は長続きせず、何度目か分からない沈黙が続く。そんな沈黙を破ったのがさっきの言葉だった。突然どうしたのだろうと思い先輩の視線の先を辿ると、そこにはもうすぐ散る桜の花があった。
私は花見はそこまで好きではない。幼いころは毎年近くの公園に行って家族全員で桜を眺めたけれど、レジャーシートを敷いても感じる石の硬さと何となく気まずい空気に早く帰りたい、なんて野暮なことを考えていたほどだ。
でも子供だからそんなものだとは思う。だからきっと先輩も会話のつなぎのために思いつきで言ったのが「お花見」だったわけで、この時間に意味なんてないのだろう。
「花見って何食べるんですかね」
しかし話のたねに困っていたのは私も同じなので、何も気づいていないふりをした。
「うーん、お団子とかお餅とかポテチとか? グミもいいなあ!」
「途中から自分の食べたいものになってません?」
先輩らしい食べ物のチョイスに思わず笑みが零れる。自分の知っている「お花見」は昼ご飯を食べた後に少し甘いものを食べるぐらいのものだった。だから先輩の言葉に違和感を覚えたが、それも悪くない、なんて柄にもないことが頭に浮かんでくる。
「えーじゃあお弁当つくってよ。卵焼き食べてみたい!」
先輩は変わらず無邪気に笑っている。「いいですよ」と返事しようとしたがその前に先輩と別れる道まで来てしまって、立ち止まった。
「じゃ、また明日ね! お花見いつかやろ!」
「はい……」
その前の会話以上に何か言いたいことがあるような気がして、でもそれが何なのか分からず私は至ってシンプルな返事をした。
立ち尽くす私に背を向けて家に帰る先輩の髪や足元に次々と桜の花びらがひらひらと落ちている。どうしてここまで花びらが沢山降ってくるのだろうと考えた瞬間、顔にかかる髪や木の葉などが揺れ動いていることに初めて気がついた。温かい風が乾いた頬を優しく撫でる。
春風に乗って飛ぶ桜の花びらとともに歩いていく先輩のぴんと伸びた背筋を見て、ああ、やっぱり私に「お花見」は必要ないのだと思った。
お花見 @381
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