山茶花は残酷な程に美しい

岸亜里沙

山茶花は残酷な程に美しい

「俺は事件現場付近の聴き込みに行ってくる。吉島、お前は防犯カメラの確認を頼む。不審な人物がいたら、そいつの足取りをカメラで追ってくれ」

刑事の中里なかざとは、後輩の吉島きちじまに指示をし、警察署から出ていく。

吉島は警察に届いた事件現場付近の防犯カメラ映像を、逐一チェックする事に。


この事件は、昨日の深夜に住宅街の路地で、一人の女性の遺体が発見されたというもの。

遺体のそばには、時期外れの山茶花さざんかの花が一輪、手向たむけられていた。

被害者の女性は、最近ストーカーがいるようだと友人にらしていたそう。

この花は、その犯人のストーカーが現場に残したのかもしれない。

山茶花は被害者が好きだった花だ。


吉島は必死に防犯カメラ映像を確認し、必ず犯人を捕まえるんだと意気込む。

しかし、何時間も映像をチェックしたが、犯人らしき姿を発見する事が出来なかった。

そこに聴き込みに行っていた中里が戻ってきたので、吉島は報告する。

「中里さん、防犯カメラの映像確認したんですが、犯人らしき人物は映っていませんでした」

「一人も不審者は無しか?」

「はい。犯行時刻と思われる時間帯、不審な男は映っていません」

吉島の言葉に中里は顔を歪める。

「中里さん、どうされたんです?」

中里の顔を見た吉島は、目を丸くしてたずねた。

「吉島、俺がなんて言って出ていったか覚えてるか?」

「えっ?防犯カメラ映像から不審者を洗い出し、足取りを追えと」

「そうだ。俺は不審なとは言ったが、とは一言も言っていないぞ」

中里の言葉を聞き、吉島は呆然と立ち尽くす。

女性にストーカーがいたと聞いて、それは男だと吉島は勝手に思い込んでしまっていた。

「ま、まさか犯人は女性なんですか?」

「ああ。その可能性が高い。俺も聴き込みをしてきたが、犯行時刻に現場付近から足早に歩き去る不審な女が目撃されている。カメラに赤いワンピースを着た女は映ってなかったか?」

「あっ!そういえば映ってました!」

「じゃあそいつを追ってみよう。足取りを辿れば、解決に結び付くはずだ」


数日後に、一人の女性が逮捕される。

この犯人の女性は、被害者の女性に好意を持ち、ストーカー行為の末、被害者の女性が誰か他の男のものになるのが嫌だったとの理由から殺害したそう。

愛憎とは、いつの時代も残酷なのかもしれない。



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山茶花は残酷な程に美しい 岸亜里沙 @kishiarisa

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