第3話

 上京し、大学に入ると、友人も徐々にだけど増えていった。


 初めての土地で知らない人ばかりで…だから多分、ストレスを抱え憂鬱な毎日だと思ってた。


 三年経っても相変わらず陰鬱な表情が取れない。


 気分はずっと晴れなかった。


 けど、それでも自分を取り繕い、何とか必死に勉強した。


 そこそこの会社に内定が決まると、妙に自信だけがあった、高校生までの頃の自分が急速に帰ってきたような気がした。


 彼女の事はもう忘れていた。


 いや、今思えば、考えないように蓋をしていたのだろう。


 可愛い彼女も出来たし、自分はもう大丈夫だ。


 いや、大丈夫って何だろ。


 そんな風に思っていた。



「だが、その彼女も君を裏切った」

「…うん」



 カフェテラスで話したように、この友人に助けられた気もするし、そうじゃない気もして、記憶が酷く曖昧で、耳鳴りも酷くて散々だった。


 それでもようやく持ち直した、大学卒業を控えたある日、小さな段ボール箱が届いた。


「あの男からだった」

「…うん」


 彼女を奪った、二度と思い出したくも見たくない、あの男からだった。


 いや、実際は宛名を見て唐突に思い出したんだけど、どうやってここを知ったのか、何故忘れていたのか、わけがわからなかった。


「お前には家族と呼べる存在は居なかった」

「うん」


 唯一の助けとなった遠い親戚のおじさんの援助で何とかやってきた。


「だが、あの人が言うとは思えない」

「うん…」


 震える手はあの当時の頃のままで、いかに自分が成長できてなかったのか如実に突きつけられた。


「はぁぁぁ…ダメだったか…」

「え…?」


 段ボールの中を改めると、透明なケースに収まるディスクが10枚ほどあった。


『桧山香澄の調教動画パート1』と油性マジックで乱暴に書かれたそのタイトルを見て、僕は当時の恐怖を思い出した。


「同時に恋心も思い出した、か…」

「…うん」


 思い出してしまった。


「僕は香澄を…」

「クソ女の間違いだろ」

「…」


 タイトルからして、見てはいけないものだと思った。だけど、見なければいけないのだとも、同時に思ってしまった。


 おそらく僕と付き合わなければ、彼女が悩み苦しむ必要はなかったのだから。


「そんなわけ──」

「これはケジメなんだと思う」


 未来に進む為に必要なことだとも思った。


「──はぁ…。本心なのが本当に怖いな…。そんなの知ったところで何にも意味がないしお前には必要ないと思うんだがなぁ…。まあ、クズな女は嫌いじゃないが」

「…」


「すまん、口が悪かったな」

「クズなんかじゃ…なかったと思う…」


「いやいや──…はぁ…わかったよ」


 

 彼はそんな風に言うけど、僕はそう自分に言い聞かせてそれを再生した。



『───さよなら』



 何故か急に色付いた記憶は、思い出したあの最後の顔は、どうにも無視出来なかった。


「いやいや、そんなの気にすんなって。あんあん鳴いてただろ?」


 彼はそんな風に言うけど、あの時の僕にはそうは思えなかった。

 いや、どうだったんだろう。


 確かに卒業前に見た動画には…あれ、これは何だろう。

 高校の三学期なんて、みんな覚えてるのかな。


「まあ、だからこそ俺の出番だったわけだが」

「え?」


「いや…お、始まったぜ」


『──いやぁぁっ! 誠くん! 助けてぇっ!!』

『──あいつの名前を叫ぶとか、ひひ、これは堪らないなぁ』


「あ、ああ、か、香澄ッ…!」



 そして、それは始まった。


 でもそれは、僕の知っていた、理解していた、壊された、あの男と彼女の関係ではなく、それより以前、なぜかずっとずっと忘れていた──高校二年生のリボンの色で──つまりは僕と付き合っていた頃の彼女の姿を映していた。

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