エピローグ:この世界の中で


村の朝は、ゆっくりと始まる。


 陽が昇る前に薪をくべて、ポットにお湯をわかす。

 パンの香りが風に乗って漂ってくると、今日もいい一日になりそうだと思える。


「ユウさーん、畑の草抜き、手伝ってー!」


 子どもたちの声に、ユウは笑って頷いた。

 手にはお手製の草かき。刃の部分は、町の市場で見つけた鉄片を加工したものだ。


 少しずつ、自分の手で作れるものが増えてきた。

 誰かに教わり、時には失敗しながら、それでも暮らしの輪郭ができていく。


 夕方になると、広場のパン屋台にミーナが出店の準備を始める。


「今日も来てくれるよね?」


「もちろん」


 薪の窯で焼いたパンに、ハーブバターと野菜を挟んだ特製サンド。

 いつの間にか、それが村の名物になっていた。


 そして何より、ユウが好きなのは、パンを買った人たちが

「今日はいい天気だったね」と言い合う、あの時間だった。


 この世界の空の下で、今日も一日が静かに暮れていく。

 昨日も、明日も、特別なことは何もない。だけど、ここには確かな“今”がある。


 それだけで、胸が温かくなる。

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