第2章 異世界聖女は男子高生とともに怪奇現象の後始末に奔走する
第11話 怪異は新たな説話を加える
青白い月明かりが、見上げた飾り窓から冴え冴えと降り注ぐ白亜の礼拝堂。
時折、遠くから魔物の遠吠えや、鋭い鳴き声が風に乗って響いてくる。けれども、聖なる力に護られたこの場所で、その姿を見ることは無い。——はずだった。
「魔物め……っ! 返せ!! マリアナを返せーーーーーーーーっ!!!」
起こらないはずの異変に見舞われた聖女マリアナ。掴んだ彼女の身体の感覚がまだ残る
「マリアナをっ、彼女を助けなければ! たったひとり、異界で魔物相手にどんな目に遭わされるか……
彼女のためを思って、王太子の婚約者として相応しくあって欲しいと、常に目を掛けてきた。
「私を温かな光で満たしてくれる、マリアナこそ……私に必要な者なんだっ」
彼女の出自ゆえに、忌避感を示す貴族らを黙らせるために、彼女自身に力を付けて欲しいと願った。彼女との未来を掴み取るために、敢えて少々強い物言いをしたかもしれない。
「マリアナっ!」
けれど、それはマリアナと未来を歩むために必要なことだったのだ。
「私には、君が必要なんだ! マリアナっ」
不器用だが心根は優しい彼女だ。
身に宿した魔力は、過去のパレス公爵家直系の聖女らと比較してもなんら遜色のない、むしろ一二を争う優秀さだった。
「マリアナを、助け出さなければ! 王国には彼女が必要なんだ! ……彼女がいなければ、私はっ」
レンベール王太子は、幼い頃より王国の安定と平和をひたすら真摯に考えて来た。
だからこそ、生来の生真面目さは、自他に厳しく接する気難しい性質となって表に現れたし、王国民をよく守るため聖女を婚約者として傍に置こうとした。
全ては王国の安寧のため。——そんな理由だったはずなのに。
「あたたかなマリアナの微笑みが……考えすぎる私に、いつも力をくれたんだ……」
いつからか、マリアナに安らぎを見出し、一人の人間として共に有りたいと望むようになっていた。
「マリ……ア……ナ」
弱々しく途切れるレンベール王太子の声が、何度も繰り返し静寂に包まれる礼拝堂の空気に溶けた。
◇ ◇ ◇
「いいか!? 絶対に置いてくなよ! 手柄も逃げるのも全員一緒だからな」
「分かってるって、今回こそは例のモノをバッチリ動画に収めるんだろ」
「夜の校舎をうろつく、裏返りの幽霊だよな! この前の声は、きっと聞き間違いだっ」
少年らの声が、ひそやかに響く。
街路灯の光も届かない、夜闇に包まれる23時を過ぎた
「……だけ、な……ん、だ」
ふと
絞り出すような青年の声が、忽然と暗闇から響く。
「帰っ……き……くれ」
期待通りの現状の訪れに、少年らはゴクリとつばを飲み込み、微かに頷き合ってさらに歩を進める。向かうは、声の響いてくる先である中庭だ。
「掛け替えのない君を、何より大切にするから」
けれど、続いて聞こえた言葉に「あれ?」と足を止めた。押そうとしていたスマホの録画ボタンに伸ばしかけた指もピタリと固まる。
「君が居なくなって……はじめて、己の弱さに気付いたんだ」
「困った君の顔さえ、私に安らぎをもたらしていた。君の存在があるだけで、私は自分の想いが達せられていると錯覚していた」
怪異(?)の声を辿りつつ、進める歩はいつの間にか医務室前に差し掛かっている。
「君の存在がないだけで、心が折れそうだ」
いつからか、学園の怪異は性別を変えたらしい。声は延々と続くが、姿はどこを見渡しても存在しない。けれども三人の耳に、その声はしっかりと届いている。
「なんだコレ?」
「痛々しい自分語り
「いや、そうじゃないでしょ? コレって、ホントにウワサの怪異?」
前回のこともあり、声の出現は想定していた彼等ではあった。だから、か弱い少女の囁きがホンノリ撮れれば、くらいの期待はあった。やっぱ風の音とかじゃないかと笑い飛ばして盛り上がるのを期待していたのだが。
「……私の手を掴んで……欲しい」
――あまりに情けない捨てられオトコの独白。
うーん、と口を引き結んでそれぞれ思案し、顔を見合わせる。が、三人共に困り顔だ。撮ったところで怪異と言うには、野暮った過ぎて笑い話にもならない。撮れ高皆無の怪異にどう向き合うべきか、何とも言えない空気に包まれてしまう。
「戻って、欲しい……」
先程よりもはっきりと、暗く沈んだ声が再び少年らの耳に滑り込んで来る。その瞬間
びたん
と、医務室のガラス窓に真っ白い大きな手形が一つ現れた。
「ぎゃぁぁぁあああ!!!」
「やめて、出ないで、話さないでっ!!」
「僕らは単なる通りすがりの、無関係な者ですからーー!」
途端に大声を上げて、少年らは大慌てて走り出す。三人は、あっという間に校門の向こうへ駆け抜けてゆく。
この日、
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