腹を割って話しましょう?

むちむちのルチノー

プロローグ

「お嬢様。私は……私は、貴女を殺めるために、ここに参りました」


 月に照らされた刃。

 私の喉元にぴたりと突きつけられる。氷のような感触。


 目の前で、何よりも信頼していたはずの人が、静かに涙を流していた。

 完璧な従者である彼女の、初めて見る不完全な姿だった。


「……え?」


 なぜ、あなたが、そんな顔をしているの。

 なぜ、あなたが、私に刃を向けるの。


 掠れた声で尋ねるのが、やっとだった。

 彼女は、嗚咽を必死に噛み殺しながら、答えた。


「エレアは……私の、たった一人の妹です」


「そして……お嬢様のその力が、あの日、妹の時間を奪った……!」


 エレア。

 知らない名前だった。

 私の力。

 私の罪。

 ――あの薔薇園の悪夢が、脳裏をよぎる。


 なぜ、こうなってしまったのか。

 その始まりの景色は、今も私の心に、棘のように突き刺さっている――。

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