婚約者は誰?

片栗ポン酢

第0話 前日譚

 遠い昔、とある大陸で数多の国家が栄枯盛衰を繰り返していた。その中に、戦乱の時代を乗り越え、平和と秩序を勝ち取った国があった。ポラリス王国である。


 この王家に、王太子サミュエルとその妃ナターリアの第一子である女の子が誕生した。国王ラングホーンは、ミーティアと名付けられたその王女の愛らしさに心底蕩けた。そして、誰の目にも目尻の垂れた愛情深い祖父と映るほどに、彼女を溺愛した。ラングホーンは孫娘を溺愛するあまり、当時の制度を覆し、女性にも家督継承権を認める勅令を出した。


 傍系の出身であるラングホーンには、直系の男性王族の全員が諸々の要因で命を落としたことで、自身が玉座に就いた過去がある。彼は、息子サミュエルと孫娘ミーティアのみとなった自身の血筋の細さに危機感を抱いていた。王家の家臣としてそれぞれの家門を背負う貴族たちの中には、後継ぎとなる男子がいないという、同様の悩みを抱える者もいた。

 こうしてその勅令は、男系相続が主流だった時代に、新たな風を吹き込むものとして広く受け入れられた。



 王女ミーティアの誕生から十五年が経った。

 彼女はすくすくと育ち、その愛らしさと聡明さで、国民からも広く慕われる存在となっていた。勅令を根拠に、いずれ立太子を果たし、王国に確かな未来をもたらすだろうと、誰もが期待を寄せていた。


 これは、後にポラリス王国史上初の女王として即位するミーティアの物語ではない。この物語の主人公は、後に女性公爵としてミーティアを補佐する令嬢と、その令嬢に仕える侍女である。

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