師匠と聖女メルルの復讐。②
目を覚ますと、そこはまたもやベッドの上。
両手両足が縛られていないことをまず確認する。そんな無意識の行動に、自分で自分に苦笑するしかない。
その後で毛布と服をめくり、俺は腹部の傷を確認した。治癒魔法のおかげで、どこが刺されたのか、自分でもわからないくらい綺麗に治療されている。
「マスターッ!!!」
「ウギャーッ!?」
その時、アリスがベッドに飛び乗ってきて、俺は悶絶する。
どうやら中身まで完全に元通りとはいかなかったようだ。あれだけ深く刺されれば当然か。
「すみません、マスター」
「痛た……気を付けてくれよ、アリス」
「私がマスターを守ると誓ってから、こんなことばかりで本当に申し訳ありません」
アリスはベッドから降りた後で、そう言って頭を下げた。
「頭をあげてくれ、アリス。お前らが俺を助けてくれたことには変わりないよ」
薄れていく意識の中でもアリスとマジョルカの二人の弟子が俺を助けてくれたことは覚えている……いや、確かもうひとり……他にも誰かがいた気がする。
「マスター、私があなたを助けたんです。お前らではありません、完全に私一人のおかげです、マスター」
「何をバカなことを言ってるの?あの場で私が応急処置をしなければ、お師匠様は死んでいたかもしれないのよ。
その間、あなたは何をしていたの?」
その時、マジョルカが俺とアリスの間に割って入った。
「私の周りでおろおろしていただけじゃない。だからお師匠様、今回、お師匠様が助かったのはすべて、私のおかげです」
「そもそもマジョルカ、私がいなければ聖騎士どもを追い払うことは出来なかったってことを忘れないで」
相変わらず犬猿の仲の二人は、病室にもかかわらず大声で喧嘩を始め、そしてナースに怒られる。
俺も以前、同じように怒られた。変なところで師弟は似る者なのかもしれない。
「お師匠様、残念なお知らせがひとつあります」
「セラフィのことだな……」
そう言われ、俺はあの場にいたもう一人のことをようやく思い出すことが出来た。末っ子弟子のセラフィのことを。
「セラフィは、聖女メルルに従っていました」
「……ダメだ、セラがあの場にいたこと以外は、何も思い出せない……マジョルカは前、セラフィは向こうの世界に残ったって言ってなかったか?」
「お師匠様の処刑の後、聖教会から二人で逃げ出しました。ですがあの様子では、再び聖教会に捕らえられてしまったのかもしれません」
セラフィの得意な占星術で俺はどんなに上手く隠れても居場所をあぶりだされて、最後には聖教会に捕まり、処刑される羽目になった。
つまり、俺が生き残ったこともセラフィには知られている。
「メルルはこのまま黙っていないだろうな」
「あの娘がお師匠様を恨んでいる様子は尋常ではありませんから。何をやったら、聖女様が転生してまで、お師匠様を殺しにやってくるんですか?」
「本当に心当たりはないんだがな……」
処刑されたあの日まで俺は彼女に会ったこともなかったのに、何故こんなにも執着されるのだろう――。
「マスター、これからどうしますか?」
「お師匠様、これからどういたしましょう?」
そんなのは決まっている。もちろんこのふたりも俺の答えを知っている。
だけど、ふたりの弟子は俺の次の言葉に耳を傾け、俺はあえて口に出した。
「お前ら、聖女メルルからセラフィを取り返すぞ」
アリスもマジョルカも強く頷いたその時、病室の扉を誰かが乱暴に開ける。
「呼ばれて登場ッ、みんなのアイドル聖女メルルちゃんですわーーーッ!!!
驚かせちゃったかしら?
私の大ファンのセラフィちゃんのたっての頼みで、今日はオシショー様のお見舞いにサプライズ登場いたしましたの!!!」
残虐で、残酷で、冷酷な、そのうすら笑いは聖女メルルにとてもよく似合っていて、もし彼女の信者であれば一発でひれ伏したくなるような、カリスマとしか言いようのない不気味な威圧感を秘めている。
「アリス・ダブルクロス。こんな狭い場所で死神の大鎌を振るえば、あなたの大切なマスターも巻き込むことになりますわよ。
マジョルカもここで薬を投げるのはやめたほうがいいのは、言わなくてもわかるわよね?」
今にもとびかかりそうなアリスとマジョルカの機先を制して、薄ら笑いの聖女メルルは高らかに語り始める。
「まさかこんなことになるなんて思いもよりませんでしたわ。
あなたを見限ったはずのアリス・ダブルクロスが再び、仲間になっていたなんて……完全に想定外でしたわ。
せっかく前世から連れてきた聖騎士の精鋭がまるで役立たず――」
命令に逆らった彼らはひとりひとり、わたくしが直々に処刑することにいたしましょう。まるで今朝、着る洋服を選ぶような気軽さで、聖女メルルはそう死刑宣告した。
「一日ですわ……たったの一日。
昨日、わたくしたちはこの世界にやって来た。
昨夕、セラフィに命じて、あなたの居場所を突き止めた。
昨晩、あなたを刺したけれど、失敗した。
そして今日一日かけてついに
あなたを、
アリスのマスターを、
マジョルカのお師匠様を、
セラフィのおししょーを、
処刑する最後の準備が今度こそ、完膚なきまでに完了いたしました。
今からその証拠を見せて差し上げますわーーー!!!」
メルルはそう言うと、病室の扉を開けて誰かを呼び込んだ。
その彼女はメルルそっくりの顔で、違うところと言えば、目の横に人のモノではない冷たいアイスブルーの鱗が生えている所だけ。
今度こそ間違えようがない。
正真正銘、本物のリモネが聖女メルルの横に立っていた。
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