師匠と裏切者の弟子。①
次の日、つまりはクラン・”
その理由は、俺の悪評にある。
いわくアリスのクーデターを先導した。
いわくギリオンを追い出してクランを乗っ取ろうとしている。
いわく人体実験のモルモットを医務室に売りつけた。
俺の悪口を喧伝している何者かの存在を疑うほどに、悪評は巨大なはずの”銀の王国”の住人に広まっていた。
マジョルカの尻を叩くことでアリスの復活は今日中には終わりそうなので、彼女も勝手に頭数に入れるとして、俺、フラム、ルビー、そしてアリスともう一人。
そのもう一人がどうしても集まらなかった。いつもは面倒見のいいリモネも今のクランを抜けることは決して出来ないと早々に俺に宣言して以降、相手にもしてくれない。
蛇神退治の報奨金はそれなりの額が出たが、昨日の宿代と散々飲み食いしたカフェ・モノクロニズムのアリスの給料の天引き分、その他生活必需品を購入したら、もうわずかしか残っていない。
――また、放浪生活に戻る。
すべてが解決したら、つまりアリスの復活を見届けて、マジョルカに説教をして、そしてクラン・”
そんなのは嫌だと、今の俺はそう感じる。すべてを無くしたのに、また手に入れてしまった。手に入れてしまえば、無くすのが怖くなる。
あと一人、もう誰でもよかった。
「お師匠様、どうなされたんですか、ぼーっとして?」
落ち込んでいる俺の顔をマジョルカは覗き込み、目が合った。マジョルカの表情はいつだって、くすくすと笑っているようだ。その蠱惑的な笑みを崩した一番弟子の姿を俺は見たことがない。
いつだって余裕たっぷりに、いつだって蝶々のようにひらひらと俺の下を去っては、また舞い戻ってくる。
俺の処刑の時だってそうだった。
どこからか舞い戻って来たと思ったら、俺の処刑の様子をやはり笑いながら見下ろしていた。
「アリスの分の薬が出来ましたよ、お師匠様?」
「……お前、なんで俺のことを裏切ったんだ?」
「裏切った?誰が誰を?」
「とぼけるなよ。いい加減、種明かししてみろよ」
マジョルカはやはり笑った。それは見たことのない程に残酷な笑みだった。
「だって、つまらなかったんですもの……」
そして、マジョルカは彼女の恐るべき計画を明らかにし始めた。
アリスがいなくなって私たちは、明らかに限界を迎えていました。聖教会の追跡はより厳しくなっていたのに、最強の弟子が突然、いなくなったんですから当然のことです。
生まれついてのこの瞳。この瞳がある限り、私たちは聖教会に追われ続けるし、人々に蔑まれ続ける。
問題はこの瞳、”星の一瞳”にある……。だから、それを解決するために、私は新しく研究を始め、やがて一つの真理に行きつきました。
しかし、時はもう遅かったのです。
聖教会の追手はもうそこまで迫っているのに、私にはその研究成果を実現させるための時間と設備がない。だから、私はお師匠様を売り渡して、聖教会からそれらを貸してもらうことにしたんです。
”世界を変える研究”と言えば、聖女メルルは簡単に信じてくれました。これもお師匠様という手土産があったればこそですが……彼女、お師匠様を何よりも憎んでいましたけど、何か心当たりが……ない?……そうですか。
まぁ、それは置いておいて、私は不眠不休で研究を続け、そしてやがて真理という木になった果実を手にしたんです。
――”転生薬”という禁断の果実を。
そう、問題は”星の一瞳”にあるわけではなかったんです。
”問題は、世界の方にこそある”
私たちを否定する世界の方が、間違っているんです。
だから私は、お師匠様の処刑の後、あなたに口移しで、転生薬を飲ませました。
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