師匠、アリスと仲直りする。③
受付に話を通すと、すぐにヴェルサが迎えにやって来た。炎の鱗が生えているにも関わらず、その目線は冷たい。
「ようやく来たわね……一体、何をやっていたの?」
「いや、ここのギルドメンバーに喧嘩を売られていたんだよ。なんで裏切ったはずのヤツがこの辺を大手を振って歩いてるんだ?」
「こっちにもいろいろあるのよ。なんでもいいから、これ以上ギルマスに迷惑をかけないでくれる?」
もう待ってるんだから、そう言って俺たちを急かすヴェルサにしたがって、ギルドの奥へと進んでいくと、やがてただでさえ豪勢な宮殿もどきの中で、さらに豪華な扉の前へとたどり着く。室内には、ギルドマスターのメディアが待ち構えていた。
「ヴェルサ君、金額はまとまったかな?」
「はい、ギルマス。こちらにまとめておきました」
「……ふむふむ。さて、”転生者”君ならびにその弟子のアリス君。この書類に書かれている天文学的な数字は、我々、”銀の王国”がアリス君から被った被害の賠償額だ。
死者こそ出なかったがけが人続出、おまけに本部もこのありさまでうちは大損害だよ。
もちろんこの額を、私は君たちに合法的に請求することが出来る」
その借金の押し売りに対して、俺は一晩考えた答えを突き返してやった。
「アリス、もう一回暴れていいぞ」
「はいマスター、喜んで」
「ちょちょちょ、わかってるわかってる。だから、いきなり部屋を真っ暗にするのは止めてくれ……ボクにはトラウマものだよ、それ」
ヴェルサがこちらを見つめる視線がますます冷たくなっているが、転生したばかりで天文学的とかいう額の借金を追うのはごめんだ。もちろん”銀の王国”に追われることになるだろうが、逃亡生活には慣れている。
「まったく法治国家を何だと思っているんだ?」
「アリスのしでかしたことは悪かったとは思っている。だけど、そそのかした奴がいることも間違いないんだ」
「まぁね。その件についてはこっちでも調査を進めている。ギルメンの誰かがアリス君の強さに目を付けてクーデターに利用した。それは分かってる。けれど、このままアリス君を無罪放免とすれば、ギルドメンバーが誰一人、納得するわけがない」
メディアは、そこで言葉を切って立ち上がった。
「結論から言うと、アリス君に正式にこのギルドに加入して欲しい。これがうちにできる最大限の譲歩だよ。もし、この条件が飲めないのならば、我々は全力をもって君たちを追い詰める。昨日は正面から行って負けたけど、何も正攻法だけが手じゃないさ。ボクの王国を敵に回すということは、この王国を敵に回すということだから、覚悟するがいい」
「お前、アリスの強さが欲しいだけだろ?」
「身もふたもないことを言うなぁ、師匠君はさぁ……まぁ、ぶっちゃけるなら、そういうことだね。アリス君が”銀の王国”に加入したという情報は、君たちに請求予定の金額と同じくらい価値がある。こちら側に有利な条件で和解したという何よりの証拠になるからね」
悪くない条件どころか、まったくこちらに損のない条件だ。断れば、一枚岩になった銀の王国を敵に回すことになることを考えれば、飲まないという選択肢はないだろう。俺がアリスに条件を飲むことを進めようとしたとき、
「――お断りします。私の力はこれからはずっと、マスターのためだけにありますから」
アリスがそう言って頭を下げた。
「えぇーーー。じゃあ、そのお師匠様の命令なら聞くってことだよね。”転生者”君、アリス君に言ってやってくれる。壊したものは弁償する、誰かを傷つければ治療費を払う、アリス君にモノの基本ってヤツを教えてくれよ」
「アリスがそう言うなら、俺からは何も言うことはないな」
格好つけてそう言ったが、これで多額の債務者だ。
メディアの合図で、ヴェルサが俺に紙を一枚、手渡した。数える気にもならないたくさんのゼロが並んだ借用書。
「どうせぼったくってるんだろ?」
「”転生者”君からアリス君に一言、言ってくれれば、それはすぐになかったことになる」
「イヤだね」
「なら、気を付けることだ。少しでも返済が遅れればボクたちは容赦しないよ」
アリスの手を引いて、俺は足早に部屋を後にした。
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