師匠、弟子の裏切りを知る。②
祭りの後はいつも寂しい。ゆっくりと日が暮れ始める中、人々はいそいそと帰り支度をはじめる。彼らは一様に満足そうな顔を浮かべていた。
その背中に聖女メルルはいつまでもいつまでも、聖教会のすばらしさを説こうとしてわめき散らし続けていた。
ふと空を見上げると、日が沈みかけている空に一番星がきらめく。その一番星が処刑場に向かって、まっすぐに落下している。すぐに聖女の取り巻きのひとりがその存在に気付いた。
「あれは何?……流れ星?こっちに向かってきている???」
彼女がそう呟くと、段上にいる聖女、護衛、侍女たちが一斉に空を見上げる。そうしている間にも赤熱した隕石は、重力に引かれ地面へと落下してくる。いや、違う。それはあきらかにこちらに向かってきていた。
「あの男、まさかッ!?聖女様、お逃げ下さい。あれは魔術ですッ!あの男の星瞳術ですッ!!!」
「わっ、わかってるわよッ」
「聖女様、こちらです早く……」
「ちょっとドレスのすそが……きゃあッ!?」
瞬間、聖女の姿が突如として視界から消え失せた。
「聖女様ッ!?」
「メルル様ッ!!!」
聖女メルルはかぼちゃくらいの大きさの何かにつまづき、そして派手に転んだ。
「退避ッ!退避ーーー!!!」
「聖女様をお支えしろ、早く逃げるぞッ!」
「引きづっても構わん!早くここから逃がすのだ!!!」
右へ左への大騒ぎの中、聖女の両脇を護衛の騎士が抱えて、段上から引きずり下ろそうとした。しかし、時はすでに遅い。
流星はまっすぐ聖女に向かっている。彼女の顔が隕石の熱で照らされ、赤く光るほどまでに近づいたとき、しかし顔面直撃コースだったはずの
「うふふふふふふ、はははははは、あーーーはっはっはっ」
高笑いを浮かべた聖女メルルはおもむろに立ち上がると、クビのない死体の下へと駆けた。
「この男はッ!この男だけはッ!!!」
髪を振り乱し、豪華な衣装を引き裂きながら、彼女はもう誰のモノでもなくなった遺体を執拗に蹴りつける。半狂乱になった聖女のその様子を、御付きのモノ達はぼうぜんと眺めていたが、やがて我に返り、こう叫んだ。
「聖女様、ご乱心ッ!」
「信徒がまだ残っているぞ。早く引きづり降ろせ!!!」
「ふざけないでッ、絶対に許さない。もしお前が生まれ変わるなら、その魂までも追いかけて引き裂いてやるッ」
「かまうな、急げッ!いいから信徒にこれ以上、こんなお姿を見せるなッ!!!」
聖女は引きづられながらも呪いの言葉を吐き連ね続けていた。しかし、その言葉も聞こえなくなる。聖女も、付き人も、信徒も、処刑場から消えて、そして日の光さえも完全に消え去った。
最後に残ったのはコトの成り行きを静かに見つめていた魔女だった。魔女はおもむろに聖女が先ほどつまづいた”何か”を拾い上げる。
それはスイカのような、ボールのような、水晶玉のような丸いもの。それは紛れもなく彼女の師匠の……師匠だった人のクビだ。
かつてその人の一番弟子だったマジョルカは、それをうっとりと眺め、そしてその唇にキスをした。
その口づけは深く深く……。
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