★チケット販売〜ノートタウンへ続く音★

「そんじゃ配布場所の分担だ!俺は気取りやロードのやつらに配ってっからみるかちゃんは街に出て配ってくれ!健闘を祈る!」


ピエロに戻った甘美さんがそう言ってサムズアップをすると気取りやロードの喧騒に溶けていきます

自分の手に握られたチケットを見ると甘美さんが持っていた束よりもだいぶ薄いことに気がつきました

甘美さんはそぼろ弁当とお金まで用意しているのにだいぶ柔いことをしますね


なんだか得体の知れないほっこり感とチケットを配り残した時の言い訳を考えながら街へと向かって気取りやロードを抜けると風の音だけが静かに囁く整備されていない林をしばらく進むことになります


私はここ一帯を静寂の救済空間と呼んでいます、気取りやロードの騒音から解放されてとても穏やかな気持ちを取り戻せる場所としてとても好んでいます


けれども、気取りやロードに集まる彼らの為に建てられた仮設トイレから臭う異臭が苦手です

せめて私に芳香剤を買うお金があればなぁと思いながら林の中ほどまで歩いた時です、どこからか獣を呼ぶ声が聞こえてきました


「獅子ぃー!獅子ぃー!野菜が腐る前に出てきてよぉー!獅子ぃー!獅子ってばぁー!」


今度はなんですか……

知らず間せず素知らぬふりを行使して平和にチケットを配るノルマを果たしたい一心で早歩きを始めると、獣を探す声はこちらに気づいて走り寄って来ました


「あーキミキミキミキミぃー!ストップストップストップだ!」


「誰ですかなんですか怖ぇえんですけど!」


「ありゃりゃ〜ごめんごめん、わたしは怖い人じゃないよ、琉已泪るいるいって名前の八百屋さんだよよろしくね」


怯える私に握手を求めるその人は

緑1色の服にピンクのエプロンを腰からかけて頭には赤いパプリカを乗せたデザインの帽子を被る笑顔がやたらと眩しいお姉さんでした


「せっかくノートタウンの広場に店を建ててこれから商売だって時に相方がトイレに行ったっきり帰って来なくなっちゃってさぁ、この辺りでわたしと同じ格好をした男を見なかった?」


「ごめんなさい分からないです、というかピエロとそぼろでキャパオーバーのところになんですか?カロリーが高すぎます、そんな琉已泪さんにはライブチケットを差し上げます」


「藪からチケット!?うーん、そうしたら3枚追加で貰えるかな?相方の他にも演奏者が居るんだ」


「どうぞ、まいどです」


「確かに受け取ったよありがとう、相方が見つかったらノートタウンの広場で特売を始めるから買いに来るといいよ、うちで取れた新鮮なお野菜ばかりだから味は保証する!さらにさらにぃ!チケットのお礼にキミの買い物だけ4割引きにしよう!それとこのトマトを受け取りな!絶対に買いに来てね!待ってるからね!ほいじゃあまたね!」


琉已泪さんは私にトマトを渡すと再び、獅子ぃー!と叫びながら林の奥へと消えて行きました、忙しい人です


今日はよく話しかけられますね、なんて思いながら貰ったトマトを食べると

瑞々しさの暴力かと言わんばかりの新鮮さと美味しさに驚いて膝から崩れ落ちそうになりました

甘美さんからバイト代が出たら琉已泪さんの八百屋に行こうという決意を胸に秘めてまた歩き始めます


トマトを完食する頃には林から落書きだらけの高い壁に挟まれたサムウェアと呼ばれる道に出ます


サムウェアにはソレイテッドと名乗る兄弟のナワバリがあります


彼らはいつも誰に聞かせるわけもなくお昼頃からら夕日が沈み切るまでの時間をここで演奏しています、最後まで聴くといつもりんご味の飴をくれる気の優しい人たちです


今日も重そうなシンセサイザーとミニギターを持ち込んでウーパールーパーの形をした可愛らしいルーパーから流れるリズムに合わせて演奏しています

私は彼らの音楽への理解には乏しいのですが聴いていて苦ではないので居座ります、早く飴をください


【町へと続く静かな音楽-off vocal】

https://kakuyomu.jp/users/nanikanomoto/news/822139839850712754

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