第14章②



その日の夜__




営業が終わるのを私は静かに待ってた


周りのスタッフが帰っていくのを横目に

裏口の前に立ってると

ほどなくして悠が出てきた


「お疲れ」


「…お疲れさま」


夜風が少し冷たかったけど

悠の隣に並ぶだけで

それも全部心地よく感じた


 


ふたり並んで静かに歩く


話す言葉は少ないけど

こうやって隣にいるだけで

胸の奥がじんわり熱くなる


 


ふと私は

前からずっと胸の中にあったことを口にしてた


「ねえ…悠」


「ん?」


「卒業したらさ──」


「……」


「そしたら堂々とできるかな?」


小さく呟いたその声が

夜の静けさに溶けていく


 


悠は少しだけ足を止めて

ゆっくり私を見た


「ああ…玲那、もうすぐ卒業だもんな」


「うん…」


私は自分でも驚くくらい照れくさく笑った


「あと少しだよ?高校生活なんて」


「……」


悠は優しく髪を撫でながら

ゆっくり言葉を選ぶみたいに答えた


 


「堂々と…か」


「……うん」


「きっと今よりは、少しは楽になるかもな」


 


私はその答えを聞いただけで

胸の奥がじわっと熱くなった


まだ簡単じゃないこともわかってる

でも少しずつ先が見えてきたような気がして


 


悠は軽く私の手を握りながら

低く小さく呟いた


「早くその日が来てほしいよな」


「…私も」


 


夜の静かな街を

手を繋いだままふたりで歩き続けた


まるで

誰にも知られない世界の中に

ふたりだけでいるみたいに

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