第9章②

車内の空気が静かに流れていく


私の髪はまだ少し濡れたままで

シートに身体を預けながら

何も言えずにいた


 


──ほんとに、来てくれたんだ


それだけで

涙が出そうになってた


 


「…泊まるとこは?」


突然、飛悠が口を開いた


「……考えてない」


「はぁ…」


小さくため息をついたあと

ゆっくりとハンドルを切る


「じゃあ、とりあえず店に送るわけにもいかないし…」


「……」


「俺の部屋、少しだけなら──」


 


ドクン、と胸が跳ねた


でもすぐに続けられる


「……って言っても、変なことする気はねえよ」


 


その言葉に

ほんの少し胸が痛んだのは、自分でもよく分かってた


そうだよね

私は──まだ高校生だもん


 


「…わかってる」


小さく答えた


でも、頭のどこかでは

ほんの少しだけ

“もし”を期待してる自分もいた


 


車はそのまま静かに走り出す


 


部屋に着いた頃には

雨は弱くなっていた


マンションの一室

思ったよりシンプルで、静かな空間だった


「タオルそこにあるから」


「…ありがとう」


 


ソファに座りながら

心臓の音が止まらない


さっきまで外で震えていたのに

今は違う理由で手が震えてた


 


飛悠はキッチンで温かい飲み物を用意していた


私の目の前にマグカップを置き

向かいの椅子に座る


「…少し落ち着いた?」


「…うん」


 


しばらく、沈黙が続いた


だけどその静けさが

やけに心地良く感じてしまう


 


──今まで

誰といても感じなかった感覚だった

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