第9章
家に帰ったあと──
リビングには母がいた
また静かなテレビの音だけが流れてる
「…どこ行ってたの?」
「別に」
「最近、帰り遅いわよ」
「…何?今さら」
少しきつく言い返してしまった
母は困ったように小さくため息をつく
「玲那…あんた、何してるの?」
「別に普通だけど」
「高校生なのよ?」
「だから?」
言葉の温度が上がっていく
──今まで何も言わなかったくせに
急に干渉してくるなよ
そんな思いが溢れた
「別に放っておいてよ」
「玲那…」
もう聞きたくなくて
そのまま部屋を出て玄関に向かった
外に出ると
細かい雨が降り始めていた
どこに行くあてもなく
足だけが勝手に動いていく
薄暗い夜の街
どんどん雨足が強くなる
濡れた髪が肌に張り付いて
息も少し苦しくなる
どうしていいかわからなかった
怖くて、寂しくて
苦しくて
泣きそうで
──その時
無意識にスマホを取り出してた
【助けて】
たった一言だけ送信していた
***
数十分後──
車のライトが近づいてくる
助手席の窓が開いて
飛悠が顔を出した
「乗れ」
私は何も言えずに
震えたまま助手席に乗り込んだ
車内の暖房が優しく包み込む
しばらく無言のまま走っていた
やがて信号待ちで車が止まると
飛悠がゆっくり口を開いた
「……なにがあった?」
「……別に」
「別に、で呼び出したわけ?」
「……」
「玲那」
静かな声だったけど
その中に少しだけ、違う色があった
「正直言えよ」
「……ちょっとケンカしただけ」
「親御さんと?」
小さく頷く
「別に…出てきただけ」
「……」
また少しの沈黙
やがて飛悠がゆっくり息を吐いた
「…でも、本当に困ってたわけじゃないんだろ?」
私はハッとして顔を上げた
「……なんで分かるの」
飛悠は少しだけ笑った
「来るか来ないか…試したろ」
ドクンと胸が跳ねた
「……」
当たってた
その通りだった
本当に助けてほしかった気持ちと
それでも、ちゃんと来てくれるのか試した気持ちと
両方あった
飛悠はハンドルに手を置いたまま
静かに前を見つめてた
「でも──」
「……」
「…試されたって気付いても、結局こうやって迎えに来てんだから…俺も大概だよな」
小さく呟いたその声に
胸の奥がじわっと熱くなる
車の中は
エアコンの音だけが静かに響いていた
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