第2話



それから何度か、私はあの店に通うようになった



初めて会ったあの日から


あの冷たい目が、ずっと頭から離れなかった


「また来たんだ」


飛悠は、毎回そんなふうに軽く言う




嬉しそうでもなく


かといって迷惑そうでもない


どこまでも、一定の距離感を保ったまま


私の前に座る


「来ちゃダメなの?」


「別に」


その言い方がずるい



いつも、突き放すわけでもなく

甘やかすわけでもなく

私の心をふわふわと宙ぶらりんにする


「高校生がこんなとこ通っていいの?」


「…自己責任なんで」


「ふぅん」


短く笑ったその顔が、やっぱり綺麗で

また心臓がバクバクし始める


 


同級生と居た時は

一度もこんなふうに緊張したことなんてなかった


同じ歳の男の子たちが幼く見えて

話してても退屈で

結局どれも長続きしなかった


だけど飛悠は違う

何を考えてるのか分からない

でも、それが面白かった


「…飛悠くんってさ、彼女いないの?」


ふと、口から出た言葉に

自分でも驚いた


飛悠は少しだけ目を細めて、私を見た


「仕事だから、そういうの作らないようにしてる」


「…へぇ」


「作ったら面倒でしょ?いろいろ」


「…だね」


何が”面倒”なのかは聞かなかった

でもなんとなく、その言葉が少し胸に刺さった


 


わかってる


これは仕事で


私は客


でも──それでも




心は、止まらなくなってきてる

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