星を飲む鳥
sui
星を飲む鳥
夜の海辺に、一羽の黒い鳥がいた。名はなく、声もなく、ただ空を見上げていた。
その鳥は、人の心の孤独を食べて生きていた。けれど、もう長く食べていない。世界は音を失い、人々は孤独を口に出さなくなった。だから鳥はどんどん透けて、風に溶けそうになっていた。
ある晩、一人の少女が海辺に現れた。彼女はぽつりとつぶやいた。
「誰か、わたしの声を聴いてくれる?」
その言葉に、鳥はふるりと羽をふるわせた。見える者はいないはずのその鳥を、少女は見上げた。そして小さな声で言った。
「あなた、さびしいの?」
鳥は答えなかった。ただ、少女のそばに降りて、そっと胸元にくちばしを当てた。
その瞬間、少女の胸の中から、夜空のように深い孤独があふれ出し、それは星となって空に昇っていった。鳥は一つ、その星を飲み込んだ。
鳥の羽が、かすかに光った。
「ありがとう」と少女は微笑んだ。「あなたがいるなら、明日も歩ける」
その言葉は、鳥の体を満たす甘い光となった。
それからも、鳥はさまよい続ける。誰にも見えないまま、誰かの孤独を飲み、羽に小さな星の輝きを宿していく。
今夜もどこかで、星を一つ飲む音がする。
星を飲む鳥 sui @uni003
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