ぼやけた南国に思いを馳せて
アーサー・ライト
前編
二〇一五年九月〇日
「兄~、弟~、フィリピンに行くよ~」
母からいきなりそんなビッグニュースを言われて驚かない人はいないだろうか
かく言う僕がその一人だ。ああ、弟も含めて二人か
まぁ驚かないのも無理はない。なんせ当時の僕は八歳、弟は七歳だったのだから
僕が七歳の時でフィリピンがどのような場所か知っていたため、おそらく驚きより喜びの方が大きかったのだろう。まぁそれでも、もうちょっとリアクションがあってもいいんじゃないかと十年後の僕は思ったりしたが
かくして僕たちはフィリピンのセブ島の隣の島、マクタン島に行くことが決まった。祝え!
因みにこの事を言われたのはわずかその日を含めて出発3日前である
九月●日
あっという間二日が経ち、僕たちは電車に乗って空港まで向かった。何処から乗ったのかは言わない。というか、これを読んでいる人は誰も興味ないだろう
国際線に行き、手荷物検査を済まし、搭乗チェックにパスポートを見せ、飛行機に搭乗
この一連の流れが非常に退屈だったがこの後、その退屈さを吹き飛ばす素晴らしい物を見たのだ
丸虹である
なんてことはない。ただ丸になった虹である
だけどその虹が10年の月日が経った後も僕の脳に感動を残してくれた
これからも忘れる日はないだろう
九月◎日
それから目的地まで六時間もの間飛行機に乗り続け、空港から数十分後、僕たち家族は数か月間お世話になる学校に到着した。初めての海外は蒸し暑く、日本よりもじっとり肌に来ることを今でも覚えている
学校の寮に着いた時にはもう僕と弟はもうへとへとで直ぐに寝てしまったけど、これからの生活のちょっとした不安と、何とも言えないわくわく感に浸りながら熟睡した
九月◐日
引っ越して最初の日は寮に住んでいる人たちへの挨拶周りと共同施設の使い方。そして周辺の探索だ
この学校に住んでいる人、勤めている人たちは皆とても親切で仲良くしてくれた。日本人、人、韓国人、欧米人。こんなにも多国籍の人たちを見たのはこれが初めてだった
昼は近くのショッピングモールの買い物の前で母さんと弟と一緒にピザを食べ、皆で美味しいと目を輝かせた
頼んだものはハワイアンとラザニアだ。ハワイアンはクリスピーな生地にトマトソースを塗ってハム、パイナップル、チーズを乗っけて焼いたピザで、ラザニアは平たいパスタとミートソースなどを層状に重ねてオーブンで焼き上げたパスタだ
ハワイアンはピザにパイナップルを乗せてしまっている異様さが有るのにその甘酸っぱさとクリスピーな生地はよりハムの肉感とチーズの味を際立たせてくれ、ラザニアはトマトの味が程よく香るミートソースとモチモチ噛み応えのあるパスタの味、そして茶色に焦げている濃厚なチーズが何とも絶妙だ
10年後も弟がハワイアンのピザしか食べなくなったのは絶対にこのピザ屋が原因である
九月◒日
その日は学校に来てから始めての授業だった。学校と行っても僕たちと同年代の子どもたちはほとんど居らず、子どもは随分と少なかった
だけど人見知りが強かった僕たちにとっては、彼らが作る雰囲気はとても早く打ち遂げられたし、一部の先生とは夜にボードゲームに誘うくらいに仲良くなった
九月◔日
フィリピンは島が多い
大小も合わせて七千六百四十一個もある
日本と比べてみると四千四百八十四個と少ないが、それでも多い方だと思う
その様な小さい島(外周10分以下)をバカンス用に使う観光業が多い訳で
僕たちも例にもれず島でのバカンスを沢山楽しんだ
まず面白いのが船の形で、『ハンガーボート』という名前で両脇に竹製のアウトリガー(浮き)がついた小型船だ。僕はそんな日本にはない船の形を面白がって、船の先頭に行って座ったり、アウトリガーに掴まったりとあちこち見て周ったら母さんからすごく心配された。逆に弟は海があまり好きではなかったし、人見知りだから母さんの傍でずっと座っていた
やがて目的地に到着すると、事前に準備されていたのか暖かいお昼ご飯を食べる。食事の内容はあまりよく覚えてないけど良く食べたのがおそらくパラパラとした米とレチョン(子豚の丸焼き)だ。レチョンは外の皮はパリパリで中はジューシーな旨味が広がる
それから、様々な種類のフルーツだった。定番のバナナ、マンゴーはもちろん、日本では見たことがない物もあった。例えばランブータン、ランゾネス、ポメロがあったような気がする。弟と僕で好みが分かれていて、弟がランプータン、僕がランゾネスとポメロしか食べなかった。。お互いが自分の持っているフルーツを勧めて、決して食べようとしなかったのはいい思い出だ
後はハンモックでゆっくりしたり、砂浜で山を作ったり、シュノーケリングで熱帯魚などを見たりと何回もいっぱい楽しんだ
十月△日
その日はセブで有名な滝『カワサン・フォール』へ行った。セブから三時間だったけど本当に大変だった
何故かというと、ここに来るまでにフィリピンのローカルハンバーガーチェーン店『ジョリビー』でバーカーを買ってもらったのはいい。だけど問題だったのその後である
バーガーの中にあるソースが奇跡的に不味甘いのである
おそらく甘いものLOVEな現地人向けなのだったのだろうが、まじで何なの?!、とさけたくなるような味だった
しかも山道を登っている揺れのダブルパンチでノックアウトし、思いっきり吐いてしまった。オロロロロロ……
その時、もう二度と『ジョリビー』でハンバーガーは食べないと古今東西あらゆる神に誓った。制約にした。そして更に誓約にした
そんなこんなで道中辛い事がありつつも僕たちはようやく目当ての滝へ着くことが出来た
車から降りて辺りを見渡してると美味しそうな匂いが漂ってくる店を見つける。ドライバーから『トゥロン』の名前だと教えてもらい、母さんにねだって買ってもらった。恐る恐る食べてみるとあら不思議。サクサクの春巻きの皮に砂糖をまぶしたバナナが入っているのだけど、さつま芋とバナナの中間の不思議な味がしてめっちゃホクホクだった。この美味しさを称えて、神に祈りを!!!
トゥロンを食べた後に滝へと入ると同じく同乗者であったアメリカ人に肩車され、うきうきで滝の真下へと進んだけど直ぐに離れることになる
中学生ぐらいに倣っていると思うが、位置エネルギーと呼ばれるものがある。例を挙げて説明するとダムが水を放水して発電タービンを回すように高い場所にある物は落ちるときに大きな力を蓄えている訳である
それがダムの水じゃないにせよ、同じ高いところから落ちる物は痛いのであるどのくらい痛いかというと全身を針で打たれている感覚って言ったらわかると思う。耐えられるのあれば貴方は勇者である。オメデトウゴザイマス(棒)
慌てて肩車から下ろしてもらい、水の中に潜って岸まで戻った後は寮に戻るまで滝を眺めるだけになった
この瞬間から滝は浴びる物ではなく見るものだと気づき、納得する僕なのであった。やっぱり滝は見るものだ。うんうん
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