冒頭を書き直したい病
最近のJ-POPはタイパ重視でイントロを省く曲が多い、という話を聞いたことがあります。
真偽はさておき、個人的にはイントロというのはあったほうがいいですね。音楽は物語でもあります。これから始まる物語を歌詞ではなく音で表現し、物語の世界へと
ちなみに私の好きなイントロはサザンオールスターズの『Oh!クラウディア』。しっとりとしたピアノの分散和音が歌い出し直前で突如低音(しかも単音)を響かせ、はっとさせられる。その余韻を残したまま「恋をしていたのは去年の夏の頃さ」とふたたび静かに語りはじめる。主人公は去年の夏、どんな恋をしていたのだろう……と興味をそそられ、一瞬にして物語の世界へ連れていかれるのです。
クライマックス直後にぶつっと潔く切るアウトロ(これもピアノ単音の低音)のfinも素晴らしいのですが、語り出すと止まらないのでこれくらいに。
さて本題。
音楽のイントロというのは、小説でいうところの序章・序文にあたります。
序章や序文などなくても物語は始められますが、それらがない分、冒頭部分で読者を惹き込まなければならないという難しさもあるでしょう。
小説は、これがイントロにもなってしまうので。
昔男ありけり、春はあけぼの、いづれの御時にか、男のすなる日記といふものを、徒然なるままに日暮らし、吾輩は猫である、ある日の事でございます、国境の長いトンネルを抜けると雪国であった等々、名作はのっけからインパクト且つ覚えやすいセンテンスで読者を惹き込みます。
ですが、『平家物語』ほど韻律が美しく整った序文はそうそうお目にかかれるものではありません。
そう、古文の授業で暗記させられた、あの冒頭部分です。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響き有り
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす
おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし
猛き者もつひには滅びぬ
ひとへに風の前の塵に同じ
視覚・聴覚・語彙のどれをとっても完璧。思わず音読したくなります。特に最初の4行。ビジュアルの精緻もご覧いただきたくて、あえてルビは省略しました。
Web小説は一話目が勝負ですから、皆さん導入部には力を入れられることでしょう。特に書き出しから数行はこだわるかと思われます。
Web小説にかぎらず私も書き出し~数行は力を入れます。そして10年間師事した某著名劇作家の先生(故人)に、良いですね!と褒めていただいた拙作もあります。
しかし、褒めてくださったのは冒頭部分だけ。中身は期待外れだったようで……。まぁ、理由はカテエラってだけのことなんですがね。
理由はどうあれ、いくら冒頭が良くても内容が伴わなけりゃガッカリされるのは当然ですよ。カテエラだろうがなんだろうが、惹き込むだけの力が作品になかっただけのこと。
でもね、でもでもでも、最後まで読んでいただけたってことは、やっぱり冒頭部分って重要なんじゃないかな。冒頭がつまんなけりゃ、その後がどんなに面白い展開でも読んでもらえませんものね。
つまり冒頭に力を入れるメリットは、その後も読んでもらえる。
逆にデメリットは、内容が冒頭より劣るとガッカリされる。
これに尽きると思います。
デメリットに関しては、冒頭でハードルを上げ過ぎると自分で自分の首を絞めかねないリスクがあります。
かといって、冒頭を疎かにすると、そこでページを閉じられてしまう危険が無きにしも非ず。
結論。素晴らしい冒頭を書いて尚且つそれを上回る内容を書けばいい。
……それができりゃ苦労しませんて。
ところで、一作書き上げた後に冒頭部分を直したくなることってありませんか?
私はあります。なんなら毎回、やっぱ冒頭まるまる書き直そ、と思って実際やってます。もう病気としか。
なぜそんなことを考えてしまうのか。理由は二つ。一つは、書き進めていくうちに物語が変容し、冒頭が内容とミスマッチなことに気づく。もう一つは特に長編の場合、だんだん筆力が上がって、冒頭部分の稚拙さに気づく。こんなところでしょうか。
なので私は完結させるまで公開できないんです。絶対に冒頭を書き直したくなるから。一度公開してしまったものは、誤字・脱字・時代考証の誤り以外なるべく改稿したくないというのもあります。
そう考えると、冒頭に力を入れるメリットはデメリットを遥かに上回ると思うのですよ。なにしろ執筆中に進歩した筆力で冒頭を書き直せば、より良い冒頭シーンになっちゃったりするんですから。
そして中身も直したくなる負のループ。この病気は永遠に治らない。
【蛇足】
サザンの曲はどれもイントロが秀逸で、だからこそたまに『TSUNAMI』みたいに歌から入る曲を聴くと、お?といきなり惹き込まれたりもします。
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