第2話 避難所

両親からの電話があった直後、私たちは急いで最低限の着替えと日用品をリュックに詰め、市民センターへと避難した。


最初は混乱するかと思ったけれど、近所の人たちも同じように移動していたおかげで、不思議と恐怖は感じなかった。


避難所となった市民センターには、外周に柵が張り巡らされていて、正面の門扉もしっかりと閉ざされていて、少なくともゾンビが簡単に入ってこられるような場所ではなかった。


当初は、自衛隊や警察が大勢いて、私たち避難者を落ち着いて受け入れてくれた。


施設内には、広い和室や図書室、会議室が二つ、調理室に中庭、事務室、そして大きな体育館があり、外には広い駐車場とグラウンドが広がっていた。


そして、グラウンドでは自衛隊がテントを設営し、仮設風呂や炊き出しが行われ、警察が出入り口を常時監視し、後から来る避難民の対応にあたっていた。


そんな避難生活も、やがて一週間が経った。


ある日、私とレイナ姉は体育館の片隅――段ボールで仕切られた仮設ベッドの上で、二人並んで腰を下ろしていた。


昼間でもどこか薄暗く感じるその空間には、私たちと同じように疲れた顔の人々が、ただ静かに座っていた。


この一週間、携帯はずっと「圏外」のまま。

テレビには何も映らず、政府の「避難所に移動してください」という録音ラジオが、無機質に繰り返されるだけだった。


そして、さらに一週間が経った頃。

自衛隊の一部が「市内に取り残された人の救助に向かう」と言って、トラックで出発していった。


だが、その部隊は二度と戻ってこなかった。


気づけば、この避難所に残っているのは――おそらく40人ほど。


確か、他の地域にも避難所が開設されていたという話は聞いたけれど、それがどこなのかは分からない。


私たちは、ただ寄り添うようにベッドに座って、携帯を握りしめていた。

あの時のように、また両親から電話がくるかもしれない。

そう思いながら。


私達は、両親は無事なのか。

友達は、どうしているのか。

考えるほどに、不安ばかりが膨らんでいった。


そんな時だった。


「ねぇ、レイナ。ちょっと手伝ってほしいんだけど?」


声をかけてきたのは、小林美幸さん。

避難所で再会した、姉の高校時代の同級生だ。

看護師として働いていると聞いたことがある。


確か、何度かうちにも遊びに来たことがあった。


「ミユキ? どうかしたの?」


レイナ姉が顔を上げると、ミユキさんは少し疲れた笑みを浮かべて言った。


「和室に体調崩してる人がいてね。毛布とシーツ、運ぶの手伝ってほしいの」


看護師である彼女は、避難所でも率先して病人のケアや雑務を引き受けていて、皆から信頼されていた。


「うん、わかった。手伝うよ。……カレンも行こ?」


「えー……まぁ、いいけどさ。ミユキさんも大変だよね? いろいろ頼まれて」


「ううん、平気。ここに居させてもらってる分、何かしてないと落ち着かないし……」


そう言って笑ったその時――


ミユキさんの携帯が、突如鳴り響いた。


プルルル―― プルルル――


ずっと沈黙していた画面に、久しぶりの着信表示が灯った。

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