5日間ボタン

中の人(カクヨムのすがた)

5日間ボタン

今年の年の瀬も差し迫った頃……



恋人「これ、5日間ボタンっていうらしいの」


俺「はぁ?」



向こうから駆けてきた彼女が激しくせき込みながら何かを俺に見せる。


小さな箱の上に巨大なボタンが一つだけついている装置だった。ボタンは割と大きく、早押しクイズに使えそうな感じのボタンに見えなくもない。


箱の前面には「5日間ボタン」と書かれた安っぽいラベルが貼られており、自販機のお札を入れるところの様な穴が開いていた。


こいつは時々こういう変なものを俺に見せてくる癖がある。



恋人「近所の古本屋で1500円で売ってた」


俺「5億年ボタン、とかじゃないのか?」



よくある小話で「5億年ボタン」っていうものがある。


押すと何もない空間に放り込まれ、不老不死で5億年放置される。


当然、気が狂う。だがお構いなしに5億年放置される。そして5億年後にその記憶を全て失った状態で戻ってきて、100万円もらえるってやつ。


傍から見るとボタンを押した瞬間に100万円出てきたように見えるが、その裏側には、押した本人も忘れた忘却の五億年がある。


要は「大金と引き換えに受けたことを忘れてしまう拷問を受ける」ボタンってことだろうか?


この手の話ってよく聞く。トロッコ問題とか、世界五秒前仮説とか、中二病をこじらせた奴が割とネットで語り合う系統のやつだ。



恋人「なんか、面白そうかなって」



5億年ボタンの亜種みたいなものだと思ったが、あまりに条件がおかしすぎる、5日間ってお前。



俺「……それ余裕じゃないのか?」


俺「ちょっと休み欲しいときとかむしろ連打するぞ、俺」


恋人「もしかしたら5日間みっしり拷問を受けたりして」


彼女がくすっと笑いながら冗談めかして言う。


俺「それは嫌だなぁ」


恋人「実はね~、もう使い方知ってるんだ。ボタンの裏に書いてあるよ」



確かに、ボタンをひっくり返して裏側を眺めてみると、ボタンの底の方に取扱説明書と思しきラベルが貼ってあった。



俺「おお、これか」


恋人「うん、それが使い方だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る