十六話「勇気を出した文化祭」

依然として夏の暑さが残り続ける九月。文化祭当日も30°を超える猛暑日で、学校側で冷水器の使用を推奨するほどにいたっている。

「暑い。」

「ホットプレートの前なんだから諦めろ。お客さんに出すんだから汗で汚すなよ。」

「分かってるけどさー。」

そらのクラスは屋外なのでエアコンといった空調機は存在しない。しかも料理出来るのが彼含めて四人で、二日間に分けているので替えが居ない。一日ぶっ通しで作り続けるのは流石の彼でも応えるというもの。あの三人も食べに来ると言っていたが、どう考えても引っ張りだこだろうからそちらも諦めている。

南雲なぐも君おはよ。似合ってるじゃないか。」

「ミカン先輩がしっかり制服着てるの初めて見ました。生徒会のバッチ付いてるし。」

「この二日間は生徒会所属扱いなの。何かあったら直ぐに報告するように。」

キリっとしてるので大変美人さんに見える。周りで作業している彼女を知らない男子数人が声をかけて華々しく散っていく。それとは別の男子達は何かを耳打ちされてから一切動けてないので、それはそれで恐ろしい。

「お昼は君の手料理食べに来るから楽しみにしておくよ。」

「そういうことでしたら、しっかり作らせていただきます。」

「よっしゃ!」

その後別の生徒会役員に引っ張られていった。どうやらサボって俺に挨拶しにきていた、やはり根はいつものままで安心した。

最後の準備に戻る前に周りの奴らに嫌という程質問され、そういう所が女子に嫌われるのだと言っておいた。ゆずは大丈夫だろうか。

まかないさんお願いします。」

「これなら私でも出来るので、任せてください。」

生徒会からお叱りを受けた甲斐もあり、彼女は裏方作業に就くことに成功していた。彼女のクラスも食べ物系だが、フランクフルトといった簡単に出来る物を絞っている。このレベルならゆずも余裕でこなせ、尚且つ人の目に触れないので不安要素も殆ど無い。理解あるクラスメイトと生徒会には頭が上がらない。

余裕が生まれればそらにも顔を出したいし、白峰しらみねさんの所も行きたい。

「楽しみ。」

高校入った時はこんなに学校生活を楽しめるとは想像出来なかった。信頼出来る人に恵まれたのは幸運、いや奇跡と言える。

「頑張ろう。」

文化祭が始まるチャイムが響いた。

「順番に作っていますのでお待ちください!」

「列はこちらです。体調悪いと感じましたら直ぐに言ってください。」

そらのクラスは地獄を見ていた。どうして一番人気だろう校庭のスペースを一年生が取れたのか、それを知ることになる。

校庭で行われる野外イベントは文化祭の始まりから終わりまで予定が組み込まれており、その手前の彼のクラスの焼きそばの売れ行きは凄いものであった。普通ならそこまでだが如何せんそらの腕前が良く、塩焼きそばがドンドン売れていく。

水分補給用の用意しておいた水は全て飲み干し、ホットプレートの熱さに耐えながら手を動かす。

(保温機用意してるのに全然足りないとか聞いてない。つうかこのままだと明日用の材料まで使いそうなんだけど。)

白峰しらみねさんの両親の料理を出す速さの凄さに今更気づく。プロってやっぱり凄いのだと。俺はまだまだ素人の範疇なのだと。

そんな事考えていても仕方ないので作り続けると一旦列が切れる。このタイミングで油を敷きなおし、野菜を切っておく。明日は仕事をしない日にしてあるが、休みを貰わなかったら暴動に発展していたと思う。いやここまで忙しいとか予想していないのはそうなのだが。

しかしまだお昼前にすらなっていない。この時点で少なからず口コミは広がっており、彼は知る由もないがまだまだ地獄は続くのは確定している。

「校庭で食える焼きそばヤバいらしいよ。」

「聞いた聞いた、まかないさんのお気に入りが作る焼きそばが美味いって話だろ。」

ゆずの後ろで箱詰めしている男子の会話を耳にする。

そらの料理だもん、美味しいに決まってる。)

自分のことに嬉しく思いながら、それとは別に不安も現れ始める。そう、彼の良さに周りが気づき始めた。そらは良くも悪くもこの学校では目立たない側、ある意味私が独占出来ていた状況だった。だがこの文化祭でそれは崩壊するのは目に見えている。

(女子バスケ部の人達も彼にメロメロになってたし、やだな。)

家庭科室で料理した物を包装して保温箱に仕舞う、これを繰り返してある程度作ってしまうと暇になる。椅子に座って楽出来るのでありがたいが、自分の持ち場を離れるわけにもいかない。暇な時間が増えるとそれだけ考えてしまう。

(男性に対する恐怖、どうやって克服すればいいんだろ。)

彼に告白を止めている理由の根幹。思い出すだけで全身が震え、止めることが出来なくなる。数分の間深呼吸してようやく止められる程に、私の心に沁みついている。

きっとこれが無ければ、私は勇気を出して彼を誘って文化祭を二人で回っていた。

(それが出来ないぐらいには、周りの視線が怖い。)

ピトッと冷たい何かが頬に触れる。驚いて飛び引くと道園みちぞの先輩が腹を抱えて笑っていた。神出鬼没が良く似合う人だ。

「何か困ったら直ぐに連絡してね。生徒会から注視しておくよう釘を刺されている。」

「なんか真面目な道園みちぞの先輩、変に見えます。」

「酷いなー。頼りになるし、常に君の味方だよ。」

「それは知ってます。」

「うぎゃあ!そんな純度100%の笑顔を向けないで、灰になっちゃうから!」

家庭科室を見回りを終えてメモ帳に何かを記した後に、私に指を差す。

「13時ぐらいに相棒が休憩に入るから、その時に甘やかしてやりなさい。彼マジで死んでると思うから、力になって。これ役に立つと思うから、君に授けよう。」

「耳かき?」

「ASMRで検索すれば分かると思う。じゃあバイバイ~。」

風の如く去って行った先輩を見送り、その後に少し調べた。男性というのはこういうのが好きなのだと、一つ学びを得た。

お昼に近づくにつれてまた人が増える。ソース焼きそば作ってる方も休む暇が与えて貰えず、一緒に嘆きながら作っている。

「手上げなければよかった。」

「同感。つうか腹減って来たのにこれ食えないの罰ゲームじゃない?」

南雲なぐも、それ聞いたらさらに腹減って来た。」

「すまん。」

流石にこれ以上休みが無いと死にかねないので、13時に休憩を入れることにした。ゆずにも連絡を入れたので、その時に遅めのお昼にしよう。

「じゃあ頑張るか。」

休みの時間まで体に鞭を打つ。

南雲なぐも君来たよ。」

女子バスケ部の皆さんも来てくれた。白峰しらみねさんは中学生の女子に囲まれて動けないとのこと。なんか予想ついてたけど、やはり女性にモテるんだね。羨ましいとかは思わないけど、俺もカッコいいと思うぐらいだから、女子には俺以上に素敵に見えるに違いない。

「この後お時間ありますか。」

女子の一人にお誘いを貰う。

「ごめんなさい。いつ暇になるか分からなくて、申し訳ないのだけど断らせてもらうよ。13時に休憩に入るのだけど、教室で休みたいんだ。」

「こちらこそすみません、南雲なぐも君自身を優先してください。」

人数分の焼きそばを渡し、見送る。あんな素直なお誘いを受けるのが初めてで心が痛いが、休み時間はゆっくりしたい。後日バスケ部に顔でも出してお菓子でも渡しに行こう。その前に人を捌かないと。

作っていると、時たま連絡先を聞かれる。個人情報なので信頼出来る人以外に渡すつもりは無く、来る人全員断っている。四方から殺意が籠った視線を向けられているけど、俺自身なんでお願いされるか全く分かっていないから助けて欲しい。

「どいつもこいつもイケメン...世界は不平等だ。」

「いや俺に言われても。」

「イケメンは皆そんなこと言うんだ!精神面までイケメンとか勝てるわけないだろ。」

泣きながらも野菜切ってくれるので助かってるけど、流石に可愛そうだから後でアイスでも奢ろう。女子達は女子達で他校から来たであろう男子に絡まれてるし、来年は絶対に屋内のスペースを取ろう。

そう誓ってる間に見知っている人がまた来る。ミカン先輩である。

「食べに来たよ~。変な輩もいないみたいだし、塩焼きそば一つお願いしようかな。」

「少し待っててください、出来立て出しますので。」

、お腹空いてしまって仕方ない。」

ミカン先輩がその発言をした途端、両肩を掴まれる。もうこの後の展開が読める。

「お前家に女呼んだのか!?」

「しかもこんな美人さんどうやって知り合ったんだよ。まかないさんだけでなく、お前は女をどれだけ自分の物にすれば気が済むんだ!!!」

「ただの先輩だよ。」

「「ただの先輩なら家に呼ばん!」」

全く持ってその通り。

結局ミカン先輩が仲介してくれたから首の皮繋がったけど、午後不安しかない。

【一緒に食べよ。】

ゆずの返信を確認し、一足先に教室に向かった。

集合場所の空き教室に辿り着けば、既に彼女が待っていた。

そらの分の弁当。」

「学食で良かったのに。」

「午後も大変なんでしょ。大繁盛と聞きました。」

「時間が合えば食べに来てくれ。」

パパっと食べて仮眠したく、箸を動かして次々に口に入れる。俺好みの味で美味しい。いつの間にか完全に俺の好みをゆずに把握されてしまった。そんなに好きな味とか話したこと無かった気がするけど、これも長年の付き合いの賜物か。

「俺の顔に何か付いてるか。」

「好きな人の顔はずっと見ていられるんだよ。」

「本当は。」

「ソース付いてる。」

指でクイッと掬い取った後に彼女は咥える。

「うん、美味しい....やっぱり恥ずかしい。」

「お前なー。」

ゆずをこちら側に寄せ、そのまま膝に横にさせる。優しく頭を撫で、俺も彼女で午前の疲れを癒す。何回触れても柔らかい髪、どうやったらここまでサラサラになるのだろうか。やはり色々使うのだろうか、使わない身に遠い話だが。

髪を編む動画を以前見たことがあるが、好きな女性に好きな髪型をさせたい男性を覆いと知った。夢ではあるので否定はしない。

(三つ編みとか似合いそうだな。)

腹を満たした影響か眠気が襲ってくる。アラームをセットし、壁に寄りかかる形で仮眠を取る。椅子並べて簡易ベッドにした方が休めそうだが、今の方が幸せなので無し。態勢崩してゆずにおでこをぶつけないようにだけ気を付けなくては。

(寝てしまった。)

ゆずはこの流れで私も膝枕し、ついでに耳かきもしよう算段を立てていた。

だがそれ以上にそらの疲れが溜まっていて、動くに動けない。間近で彼の顔を堪能できるのは良いことなのだが、これでは癒すどころではない。

「変わろ。」

「う、う~ん。分かった。」

体をゆすり、なんとか入れ替わる。寝ぼけている彼は大抵聞いてくれるので、こういう時は大変ありがたい。こうして私が膝枕できたわけですし。

「動かないでね。」

気持ちよさそうに寝ているから多分聞こえてない。危険なので耳かきは後日に回すとしよう。どうせ文化祭終わったら彼の家にお泊りに行くだろうし、その時は何が何でもやるとしよう。

どうしよう、彼の顔を見ていたら徐々に欲を抑えられなくなってきた。夏祭りで彼にキスした日から色々我慢が下手になってきている。

少しだけ彼の顔の位置を動かして、しやすい位置に持っていく。

(一瞬だけだから。)

ゆっくりと近づき、後数ミリで触れ合おうとした時。

「この教室で最後だ。」

バンと教室の扉が開かれた。

ゆっくりとそちらに振り向けば、小金こがね生徒会長が眉間を手で押さえながらそこに立っていた。

「こーがねーちゃーん。そっちの教室で見回り最後だし、南雲なぐも後輩の所の焼きそば食いに行こうぜー。」

寛美かんみ、この教室には誰もいなかった。うん、キスしようとしている男女とかは一切いなかった。早く食べに行こう。」

「それ絶対にいたやつだよね!?つうか何見たの、顔真っ赤じゃん。」

傷物に触れるが如く、小金こがね生徒会長の手によって静かに扉が閉められる。

「そこまで言ったらもう怒ってください!!」

そっと放置される方が辛い。

寛美かんみの言っていた通りの美味しさ。お前も食べないのか。」

「いやさっき食べたから。」

「業務サボったな。」

「あはは~。」

そらのやっぱり美味しい。」

あの後結局三人で校庭の食事スペースで焼きそばを食べることになった。弁明したい気持ちもあったのでこっちからお誘いに乗った形にはなるが。

「この後の野外イベントが本当にダルイのよ~。」

「何かあるんですか。」

「告白式だ。大抵は校舎の放送とも繋がっている此処で大々的に愛の告白をするのが普通。中には暴露大会みたいな感じで遊ぶ輩もいる。生徒会としては消し去りたいイベントだが、如何せん人気があってね。」

「だからまかないさんも例外じゃないの。呼び出されても行かなくていいからね。何かあったら生徒会の方でしっかりお灸を添えるから。」

「ありがとうございます。」

だからステージ前の客席があんなに埋まっていたのか。そのせいでそらのクラスの悲鳴が定期的に聞こえる。明日は彼休みと聞いたけど、果たして休めるのか。

「まぁ十中八九君は呼ばれるよ。君を狙っている私達と同期のバスケ部のエースが今日告白するとか息巻いてたし、生徒会室は臨時で解放しておくから逃げ込むのも吉。」

助け船を出される程度にはそのバスケ部のエースさんは私を狙っているらしい。前にクラスメイトからもその人と私はお似合いとか言われたけど、正直面識が全くない。

「嫌だな。」

でも逃げてばかりではいられない。その時が来たら覚悟を決めよう。

南雲なぐも、一旦作るの止めるわ。そろそろ人も多くなるし、俺も見たいから。」

「告白式だっけ?俺あの手のイベント興味無いし、此処で作業続けとくわ。ソース焼きそばのストックどれぐらい作っておけばいい?」

「5個ぐらいあればいいんじゃないか。お昼すぎたし。」

俺と同じように興味無い女子一人が残り、後は皆向かってしまった。

他人を巻き込んだりする系のイベントは好きじゃない。告白をあんな場所でするとか、された側もたまったもんじゃない。二人きっりの方がロマンチックだと思う。

ミカン先輩の話的には成功率は高い代わりに、破局率も高いと聞く。

「それもそうだよな。」

周りの空気に頼るような告白なんて、中身がまるで無い。俺なら喜んでお断りする。

「あっ先輩だ。」

「誰?」

「バスケ部の先輩、女子に凄い人気なんだよ。でも女遊びが酷いみたいな噂もあって、人によって好き嫌いが激しいの。因みに私は嫌い、なんかチャラチャラしてて。」

「ほげー。」

「でもオオトリじゃないの珍しいね。あのタイプは一番盛り上がりそうな最後を選びそうだけど。」

「始まりだからこそ、盛り上がりを欠けない為に成功すると踏んでるんじゃないか。」

これは持論でしかない。とはいえ、話的に女性には欠かさない人が何を告白するのか少しは気になる。

動かしていた手を少し休め、会場に目を向ける。

舞台には一人の男性が立っていて、握りしめられたマイクに向かって告げた。

まかないゆずさんにお話があります!」

「ブフォッ!!」

盛大に噴き出してしまった。

同時間帯、ゆずは教室に料理を運んでいた時、放送の形で耳に届く。

周りの同学年の女子が甘い声で叫んでいる。私本人としては全く持って嬉しくない、正直逃げ出したい。でもここで逃げれば変に噂になりかねない、そうしたらそらと一緒に帰るとか白峰しらみねさんや道園みちぞの先輩にも危害が行きかねない。

「行こう。」

クラスメイトに運ぶのをお願いし、会場に向かった。

私が見えたと同時に一気に席に着いていた生徒達は盛り上がり、皆楽しそうに私を見つめる。

(気持ち悪い。)

舞台までの小さな階段を一段登る度に視線がドンドン私一点に集まっていく感覚。それをそらに見られているのが何より嫌だ。

登り切ると司会にマイクを渡される。電源がONになってることを確認し、彼の前に立つ。彼の視線は私を見ていない、自分にしか向けられていないその視線に心が冷えていく。うん、これならいつものように話せる。

「どのようなご用件でしょうか。」

「君に伝えたいことがあるんだ。聞いたら正直に話して欲しい。」

「分かりました。」

ワザとらしくボタンを閉め、綺麗に背筋を伸ばしたその人は言った。

「私と付き合ってください!まかないゆずさんの事が誰よりも好きです。」

「私は貴方の事嫌いなので無理です。」

一瞬にして会場及び校舎内で彼女に粉砕された男子達を凍てつかせる。

会場でクラスメイトのお願いで同席していた白峰しらみねは、腹を抱えて笑いたいのをなんとか堪える。それは生徒会室でレポートをまとめていた道園みちぞのもしかり。

「バ、バスケ部として努力してきた、成績だって学年上位をキープしてる。現にこうしてエースとして活躍してるし、君のに添えられる自信もある!」

「ほら、『人気』だからですよね。貴方は私を見ていない。どうせ『まかないゆずと付き合えた』の一文だけが欲しいだけなんですよね。そんな人は無理です、二度と私の前に現れないでください。」

ズバズバと相手の心と一緒に会場の男子達の心も切り裂いていく。もはや大量破壊兵器と言っても差し支えの無い言葉の刃物。それでもゆずは辞めない。

「私は貴方の事を知りません。偶に手伝ってくれたことには感謝します、でもそれだけです。そもそも私と貴方とでは友達以前に知人、知り合いですらありません。」

同じ高校の生徒、それがこの二人を結んでいる関係性。ただそれだけだ。

「なら君の隣に立てるように相応しい人になってみせる!だから。」

「それでも無理です。」

もう言おう。これからもこれが続くのはもう耐えられない。

彼を見ていて、前までなら怖い気持ちが勝っていた。でも今は違う、相談に乗ってくれる同級生がいる、いつでも肩を貸してくれる先輩がいる。

そしてがいる。

「なんだ、こんな簡単に超えられるんじゃん。」

しっかりと目を合わせる。会場の空気なんて気にしない、相手がどんな気持ちでいるかなんて今は気にしない。だって上手く事が進む方が奇跡なのだから。

「私には好きな人がいます。」

マイクを握りしめ、この学校全てに聞こえるように続ける。

「その人はでいてくれました。今の私を尊重して、距離を取ってくれたりもしてくれました。その上で今の私を受け入れてくれました。」

届くように、そして私を求めた人達に諦めさせるように。

「私は男性が怖いです、それは中学生の一件が原因です。『私本人を性的に消費した』、それを公然と話しているを聞かされたらどんな人でも怖いはずです。」

心臓の音がうるさい、周りの音が消えていく。

「でもその人は私を見てくれました。まかないゆずとして見てくれました。偶にエッチな目で見てたりとはもちろん気づいています。それでもバレないように、私が傷つかないように頑張って隠してくれました。」

人として普通のこと、でも中学生から高校生になった私達には難しいこと。

「いつの間にかその人の事が好きになっていました。」

だから貴方の気持ちは受け取れない。

「ごめんなさい。勇気を出してくれたのは理解出来ます、ですが無理です。もう私には好きな人がいます、だから。」

司会にマイクを返し、相手と会場の生徒にお辞儀をし壇上から降りる。

降りた先で道園みちぞの先輩が待っていた。

何も言わずに私を抱きしめてくれる。されるがままにしてると優しく頭を撫で、トントンと背中を叩く。落ち着く。

「よく頑張った、私の自慢の後輩といえよう。彼には見えていないから、全力で出すもの出すといい。」

その言葉で限界を超える。

ボロボロと涙で頬を濡らし、先輩の制服を汚していく。それなのに変わらず抱きしめてくれるこの人には顔が上がらない。

「こわ、かった。」

「よしよし。因みに今白峰しらみね助手が全速力でこっちに来てるから、しっかり怒られようね。」

「分かった。」

「あ~もう小学生レベルにまで落ちてる。私の甘やかしスキルがカンストしてる故の弊害、調整が難しいのなんの。」

ずっと超えられなかった一歩を、今日踏み出せた。

白峰しらみねさんに10分以上正座させられながら説教され、そらは「頑張ったな」と頭を撫でてくれた。

「あんたの先生に話通してるから、もう帰った帰った。正門はまだ人いるし、ミカン先輩なら裏ルート知ってるでしょ。」

「はっ、知ってるに決まってるでしょ。」

南雲なぐもの手料理弁当一週間で手を打ちませんか。」

「乗った!!」

「俺を通してください!」

気づけば私とそらはいつもの帰り道に着いていた。

いつも以上に彼は私の手を握りしめている。その優しさと暖かさで心が満たされる。

「明日から大変そうだけど大丈夫か。」

「大丈夫。だってそらがいるから。」

「まだは待ったかかってる感じ?」

告白のことだろうけど、申し訳ないけどまだ待って欲しい。

「ムードとかあるじゃん。」

「そうかよ。ゆずが言ってくれるまで待てるから良いけど。」

「ありがとう。」

「ねぇそら。」

「どうし。」

こちらに顔が向いたタイミング、両手で彼の顔触れ、お互いの唇を触れさせる。

「これで我慢してね。」

「おま、お前絶対に泣かしてやるからな。覚悟しておけよ。」

「待ってる。」

そら、大好きだよ。

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