十一話「空の家、全員集合」

七月末から始まった夏休み。一瞬で八月に突入し、時の流れの早さを感じる。

「というわけで、先輩と白峰しらみねの二人とまかない君で君の家に行く事になりました。」

「全くもって、話が繋がってません。」

まかない君と話す度に、君の家での話をしてくれてね。私も相方も気になって、それなら夏休みなんだから遊びに行こうと、話題に上がった始末さ。」

「家族の予定とすり合わせてからです。」

親がいる状況であの二人が来たら、絶対にロクな目に遭わない。確か、明後日両親二人とも短い出張に出向くはずなので、タイミングはそこしかない。

「ならお泊りだね。いいな~、ハーレムだぜ。」

「我が家は、一人泊めるので限界です。」

まかない君専用か...お熱いね。」

「もう切りますね。」

何故この人は、電話しただけこんなに体力を持っていくのか。恐ろしい人間だ。

結局、ゆずと二人で、家の最寄り駅で待ち合わせになった。二人曰く、「お前らが並んでいるのが、なによりも目立つ」とのこと。それ、ゆずに皆足を奪われるからなのでは。

そんな事を思いながらも、待ち続ける。久々に会えるのを楽しみしている彼女に水を差すのも悪い。家に入れたくないのは、紛れもない本心だが。

「お疲れ二人とも。」

「なぐもっちとまかないちゃん、久しぶり。いや~、二人仲良く腕組んで、本当にお似合いだ。」

この暑さゆえ、ミカン先輩も白峰しらみねさんもかなり汗だく。念にはと持ってきていた水筒を渡し、二人は冷えた麦茶を飲む。

「うっまーーーー。本当に気がきく良い男だ。」

まかないゆずの男として、満点と言わざるおえない。」

「隠さなくなりましたね。本当に。」

「そりゃあね。」「まあね。」

「ねー」と口を揃える二人、それを見て思わず笑ってしまうゆず

「もう行きますからね。」

「一つ聞きたい。」

「どうかしましたか、道園みちぞの先輩。」

「いや、なんで後輩君の家の鍵を、君が持ってるの!?」

そらのお母さんに譲ってもらったとしか。」

「ミカン先輩、これもう外堀が埋められてるやつです。結婚秒読みです。」

「君に同じく。」

そらの家に着く直前で、彼が母親の荷物を郵便局に出すのを思い出して、私に二人をお願いして行ってしまった。なので、私が鍵を開けて家に迎え入れたのだが。

こうして、私が鍵を持っているのを二人を問い詰められていた。

自分に起きた出来事を話しても、疑いの目を向けられる。私が一番驚いてるのに。

「まぁ本当のことなんだろうし、諦めるか。そして!男の部屋に来たんだから、やることは一つ。」

「ミカン先輩、それやったら最悪南雲なぐもに絶縁されますよ。」

「何しようと。」

嫌な予感がして、私が道園みちぞの先輩を止めようとした前に、彼女は本棚の一番下に入っていたカバーの付いた図鑑に手を伸ばした。

反応的に外れだったようで、次々に色んな所を調べ始める。彼女が何をしてるかなんて、思春期真っ最中のゆずも流石に分かる。R-18の本を探している。それだけだ。

確かにそらもそういう年だし、気になりはしそうだけど悪いことには変わりない。

「いいのかいまかない君、ここで私を止めると初恋の彼の好きな服装や、髪型を知るチャンスを失い、果てにはどういうシチュエーションが好みなのかも深淵の底に消える。これは他の女性に出し抜かれる要素になりかねない。男とは、いつの時代もそういうものを求めてしまう生き物なのだよ。」

「そうなんだ....。」

私は性の知識はあっても、夜の知識が全然無い。なら、そらの好きなことを知っておいて損は無い。万が一彼が私以外の人の手を取ったりしないように、釘付けにしておくのは重要。

先輩の言い分は確かに正しい。

見事に道園みちぞのの話術にハマり、止める手を固まる。

(勝った!やはりこの子は、あの鈍感後輩君のことになれば思考がお釈迦様になる。この隙に、あいつの性癖を開示させれば。)

「流石に見過ごせません。」

白峰しらみねに腕を掴まれ、彼女も思考が停止する。白峰しらみね本人に止められることを一切想定していなかった。なんなら「私も気になるし」と言い出して、悪乗りしてくるとすら考えていた。

「普段なら乗りますけど、生憎それはお互いにまかないゆずに吊るされる前提だからです。この場合、被害を被るのは南雲なぐもだけですし、シンプルにこれを許すと二度と話せない気がするので。」

真面目なトーンで、抑揚すら感じさせずに話していく。その間も手を離さない。

「それで、それ以上動くのでしたら、私の方で彼に連絡します。いいですね。」

「すみませんでした!」

ミカン先輩も先輩で、南雲なぐもそらという非常に助かる存在を失いたくないので、諦める。

後ろで見ていたゆずだけ、少し首を傾げていた。

「何があったかは聞かない方が良いやつか。」

自分の部屋に戻ったそらだが、ゆずとミカン先輩が白峰しらみねさんに怒られていた。普段の構図と違ったので驚きはしたけど、内容を聞かされて、俺もおでこに手をついた。今時の男性は、皆電子版とかで絶対にバレないようにしている。同人誌を持ち合わせてないし、そもそもその手のイベントに行ったことがない。

「食材買って来たんで、昼飯作りますね。焼きそばの予定ですけど大丈夫ですか。」

「OK。」

南雲なぐもの料理初めて食べる。」

「私も手伝うよ。」

後でちゃんと言い訳は聞くとして、腹が減ったので先に飯にする。

フライパンを使った簡素なものなのだが、如何せん二人が凄い楽しそうにテーブルに座ってるし、隣のゆずなんて「彼の料理絶品だから」と太鼓判押してる。一般高校生の料理になんて重り乗せてるんだと思いながらも、人に出すものなので手を抜くつもりは無い。

作る途中でミカン先輩が俺の横に立って、持って来たお菓子を口に放り込んだりしていたが、それぐらいの妨害は特に気にならなかった。

「私の場所です、そこは。」

「君、まさかこんなことすらしたこと無かったの!?」

「じっくり進めていく派なんです!!」

「速攻で押し倒した方が早いだろ。」

狭いキッチンの後ろで女子二人が喧嘩してたこと以外は。

出来上がった料理を盛り付けて、お好みで紅ショウガも小皿に装う。ゆずに頼んで人数分の麦茶も出して貰い、無事に完成。

白峰しらみねさんとミカン先輩から「昼飯代ね」と500円頂いたが、これは母さんの財布に戻ると考えると、少しだけ残念な気分になる。

「美味しい。凄いシンプルにソース焼きそば。」

「飯も作れて、気も使え、真面目に勉強出来る。女子の理想な男子だわ、流石相棒。」

そら凄いでしょ。」

「なんでそんなに自慢げなんだよ。」

思ってたよりも好評で、ひとまず安心。普通に作り方通りに料理すれば、味は保障されるので、こんな俺でも作ることが出来る。

「アレンジとかしないの偉いわ~。私なら絶対にしちゃう。」

「親の分も作る時もあるので、下手に弄ること出来ないですよ。こうして皆にも出してるわけですし。」

「これまでどれぐらいまかないお嬢様の為に作ったのかな~。」

「どれぐらい?」

「10回は絶対に超えてる。」

「泊まりすぎでしょまかないゆず。」

そらの両親共々、OKしてもらってるので大丈夫でーす。」

「俺のことも考えてくれ。」

俺の一言で二人も乾いた笑いをする。大変なんです、耐えるとかが。

毒され始めて、もう二人で寝るのも普通になってきている。しかもゆずが俺の服を寝間着にするのも慣れてしまった。もう色々遅いかもしれない。

そらは先に食べ終えたので、自分の分の食器を洗う。すると次に食べ終えた白峰しらみねさんが声をかける。

「夏の予定は、夏祭りだけかい。」

「いまのところはそうです。」

「それなら八月の中旬頃、手伝って欲しいことあるんだけど。」

「部活ですか。」

「いいや、私の家の話。夏の時期忙しいの、なにせ海に面してるお店を経営してて。私は一人暮らしだから今まで関係無かったけど、休み入ったら人手欲しいらしくて。」

「それでここにいる人達の手を借りたいと。」

「ちなみに手伝いのお礼は出るよ、バイトじゃなくて有償ボランティアだから。」

「アウト....いやお金無いのは事実だ。」

小遣いだけだと、どうしても限界はある。それなら甘い罠に引っ掛かりたくもなる。

それ以前に、白峰しらみねさんのご両親は大丈夫なのか。ミカン先輩とゆずはまだしも、俺は男だし。そこ辺り考えて無さそうだけど。

「行けそうなら連絡してね。ついでにもう一つ良い事教えてあげる。」

「何ですか。」

「男の連絡先君しか持ってないから、頼める男手君しかいないんだ。」

一瞬ドキッとしたが、今までのことを振り返り、ため息が出た。

高校卒業するまで、俺振り回されるんだろうな。

俺の部屋に置いてある家庭用ゲームをリビングに移動させ、パーティーゲームをすることになった。友情破壊ゲームで有名な作品をミカン先輩が選んだので、それを遊ぶにことになった。

「借金がドンドン増えていくんだけど~。」

そら坊や強すぎでしょ。なんで毎回ゴール近くいるの!?」

「妨害しか出来ない。南雲なぐも、見逃してくれたらミカン先輩飛ばすよ。」

「しゃあない。さようならミカン先輩、楽しかったですよ。」

勝手に自爆していくゆず、不憫なミカン先輩、ただただ周りに迷惑をかけていく白峰しらみね、そして普通に強いそら。その流れが続く。

つうかなんで俺の胸にゆずが背中を預けてるし、残りの二人は俺の挟んで隣に座ってるせいで、凄い立場が狭い。なんか甘い匂いもするのに、冷や汗しかかけない。

(こういうの、普通はご褒美タイムとか言われるだろ。なんで俺こんなに息しづらいんだ。マジで誰か助けてくれ。)

ハーレムとか羨ましいとか思えないそら、修羅場に遭遇したら生きて帰れない自覚があるゆえ、こんな状況に遭遇したくないのが本音だ。

画面の向こうは相変わらず酷いことになっている。一生借金生活なゆずが可哀そうになってきたので、ゲームを変える話をする。

「いや、ゲーム下手くそすぎない。これならいっそ配信者になれば成功すると思えるレベルだよ。」

「私もここまでとは思ってなかったし。」

レースゲームも結果は目に見えてるし、最終的に協力ゲーになった。

俺はほぼほぼ介護役だったけど、楽しくやれたので良し。ミカン先輩なんか、何処から取り出したのか分からないお菓子の山を目の前に広げ、別のパーティーも開いていた。プールの時もそうだったけど、この人マジシャンか何かなのか。

「後で掃除機かけるの俺なんで、汚さないくださいね。」

「もちろん。あ、そこのグミ取って。」

グミを取ると、ミカン先輩が口を開けた。放り込もうと動かした瞬間、ゆずに指ごと食べられる。

「うそん。そこまで嫉妬する。」

「それしていいのは私だけですので。」

「いや、俺が決めることだろ。あと離れて。」

「お前ら全員死んでるぞ。」

「「「あっ。」」」

三人とも画面から視線を逸らしていたので、綺麗に穴に落ちていた。素早くゴールしてくれたので次の面で復活を遂げたが、「喧嘩は無し」と釘を刺される。

少しして、炭酸水を冷蔵庫から取り出して皆の容器に注ぎ、一旦の休憩に入った。

俺が少し離れたタイミングで、三人で何か話していた。嫌な予感がする。

「明後日まで両親帰ってこないんだよね。」

そら、後で食材買いに行こ。」

「私も手伝うよ。」

恐怖を感じるぐらいに息があった三人、次に出てくる言葉が何故か想像出来る。

「晩御飯もよろしくね。」

ミカン先輩に肩を叩かれる。

その流れ、どう考えても泊まっていくやつです。俺、ソファでもう寝たくない。

晩御飯の食費も渡されたら断れない。ゆずが泊まった時用の布団があるけど、あれに二人以上寝るスペースなんて無いし、そもそも女性3人と男性1人は色々と不味い。社会的に殺されかねない、死にたくない。

「魚でいいですか。人数分何か作るの面倒なので、焼けばいいので楽なのですが。」

「いいよ。君が作るんだし、文句は言わないよ。私が作る炭になるし。」

南雲なぐものちゃんとした料理、楽しみにしてる。女の子を待たせるなよ~。」

作るにしてもまだ早い時間帯。もう少しだけゲームをしてから買いに行こう。

セットしていたアラームが鳴ったのを確認したら、全員でいつもお世話になっているスーパーに向かう。

俺がカゴ担当、三人には買いたい食材を共有しているので、目利きが出来る自慢していたミカン先輩を筆頭に選んでもらった。

「こっちの方が重いしみずみずしいね、そっちの端のやつの方がいいかも。」

そら、お金大丈夫。私も一応持ってきてるけど。」

「足りなかったら借りるよ。急に四人分作る羽目になったからな、お金不安。」

南雲なぐも、麦茶パックどうする?さっき無くなったとか言ってたでしょ。」

「人の顔書いてあるのでお願いします。」

買いたいものを詰め込んだら、思ったよりも量があった。アイスが一本入ってたのでミカン先輩に渡す。

「どうせ先輩でしょ。後でアイス代請求しますからね。」

「当たりー、ちゃんと払うよ。」

スーパーを出れば既に日も落ちて、若干涼しくなっていた。これなら汗をかかずに家に戻れる。

「ねぇ白峰しらみねちゃん。」

「言わなくても分かります。」

二人の視線の先はあの二人。私達がいるというのに、平然と手を繋いでいる。しかも恋人繋ぎしている。もう外堀埋まり切って、実質付き合ってる状態でしかない。

「お嬢さんの方の心の問題だし、待つしかないのは分かるけど、もどかしい。」

「私達は外野です。口は挟んじゃいけません。」

そうは言ってもあのイチャつき。コーヒーに砂糖ぶち込んでもまだ甘さが胃に残りそうな勢い、私なら吐きそうなレベル。

それでも、あの二人が自然に同じ速度で歩いているのを見ると、見届けたくなる。

(邪魔するやつは消すだけだし、問題になりそうなのは文化祭だよねー。他校からも野郎共来るし、ここまで家から近いと中学からの顔見知りも来そう。注意しなきゃ。)

(どうせ自分がってに守るんだろうな、この先輩は。)

なんだかんだ過保護な先輩に、白峰しらみねはバレないように笑った。

「美味い。」

「レタスシャキシャキしてる。」

「ふふ~ん、どうだ私の目利きは。最高だろー、もっと敬ってもいいんだよ。」

「ミカン先輩麦茶取ってください。」

そらは正直並んでいる食材なんてたいして差は無いと思っていた派だが、今日の料理は一段と美味しく作れている。ここまでになると、流石の彼でも納得する。

「いや目利き出来るのに、どうして料理はダメなんですか。」

「私にも分からん。」

ミカン先輩、能力値を五角形のグラフにしたらとんでもない尖がりの形になりそう。

「ねぇ白峰しらみね助手、あれ凄くない。」

「阿吽の呼吸ですね。」

向かいの席に南雲なぐもまかないが座ってるわけだが、お互いに何か発する前にドレッシングやら、ティッシュやら渡している。そのぐらいは一緒に食事していることの表れだ。なんなら南雲なぐもの方は、私達にはご飯の量を聞いて来たのに、まかないには聞かずに装っていた。

「あかん、これ以上見せつけられたら、彼氏いない悲しさで灰になりそう。」

「その時は十字架突き刺して、確実に葬りますのでご安心を。」

「特攻武器やめてね。」

晩御飯まで頂いたので、食べ終わったら食器を洗う仕事を請け負った二人。あの二人はお風呂と干していた服を取り入れる為に一旦分かれる。

既に泊まる流れになっているので、そらもミカン先輩と白峰しらみねさん用の服を選び、一階に戻ったタイミングで大丈夫か確認する。二人からOKを貰ったので、洗面所に持っていき、明日持って帰る為の袋も用意する。

「あれ、あいつら明日用の服あるのか。」

気になって質問すると、しっかり持ってきていた。「帰れ」と言われても泊まるつもりだったらしく、別の意味で頭が痛くなった。

物置から布団を取り出して自室で広げ、このメンバーの中で体が小さいミカン先輩とゆずが俺のベッドを使い、白峰しらみねさんが布団を使うことに。

俺はソファで寝るので気にしなくていいと伝え、お風呂が沸くまでボードゲームすることにした。

「『プロポーズ大作戦』やるぞ。偉人を魔改造するやつもやりたかったけど、家に忘れた。ルール説明するぞ。」

一通り受けたら、いざゲーム。

「貴方の顔、朝まで見れたら、好き。これ絶対に朝チュンじゃん。」

「ちょっと教会行こう、結婚してください。新手のナンパかな?」

「お味噌汁、ずっと一緒、嬉しい。もう結婚...してるやつ。」

その番の進行役が一番良かったものを選ぶのだが。

「俺は、今回は白峰しらみねさんかな。なんか心に刺さった。」

「朝チュン好きなタイプなんだ。」

「いや、まぁ..はい。」

好きというより、ゆずを見てたらそうなっていたが正しい。一緒に寝るようになって、朝起きたら彼女の顔を見れると、嬉しさが込み上げてあげてくる。そう考えると、好きなタイプです。

人数分これを繰り返すわけだが、終始皆顔を真っ赤にしながら進めた。

時々ネタでしかない文が出来上がるが、大抵ちゃんとした告白文になるせいで、恥ずかしさで逃げたくなる。

「ミカン先輩が持って来たのに、本人が自爆してどうするんですか。」

「死なばもろとも。」

「キモい文になった、言いたくねぇ。」

「皆準備出来た?」

ゆずが司会役の最終ターン、各々の持ち札で文を完成させた。

順番的にそらが一番最後に言うのだが、彼の手札は今まで一番最悪の手札であった。

(文が綺麗に出来上がってるのに、これ口にしたら本当に詰みかねない。)

ついに自分の番が来た。その前に他二人に自分の手札を見せ、相談に乗ってもらう。

「これアウトですよね。」

「アウト、プロポーズじゃねえこれ。」

「まぁ、いいんじゃないかな。」

白峰しらみねさんのそれが、一番刺さるんで辛い。」

どうあがいても死あるのみ、腹を括ろう。

「じゃあそら、どうぞ。」

「『お前の子供と一生、愛してる』。」

数秒の空白の後、ゆずが静かに呟いた。

「何人ですか?」

その言葉が届く前に、道園みちぞの白峰しらみねは彼の意識を奪ったのだった。

「三人でお風呂は流石に狭いですね。」

「ミカン先輩が言い出しっぺなんで、文句は隣に。」

「ぬる~い。もう数度上げてもいい?」

「ダメです。」

「ちぇー。」

現在進行形で三人はお風呂に入っており、狭い湯舟にぎゅうぎゅう詰め状態。

まかないゆずの髪、本当に長い。手入れ大変でしょ。」

「大変だけど、彼が好きって言ってくれるから頑張れる。」

「青春だね~。」

二人で彼女の髪を弄りながら、今後の予定の話をする。既に彼には通した話だが、他の二人も快く了承してくれた。これなら、白峰しらみねも苦労せずに済みそうだ。

「また泳ぎたいな~、手伝い行く時についでに泳げない?」

「出来ると思いますけど、人も多いのでまかないゆずの負担が凄い。」

「あー、ナンパ野郎世界から滅びないかな。」

難しい話だが、まかないゆずの二人も世間一般的には美女に属するので、彼女がいなくても自然と男は寄ってくる。本人らにその気が一切無いので関係の無い話だが。

「そろそろ上がろうかな。」

「そうですね。」

彼を待たせるのも悪いので、皆で上がる。

洗面所に人数分のバスタオルが用意されていて、私達が入った後に置いてくれたようだ。一緒にパジャマ代わりの大きめの服も用意してるあたり、しっかりしている。

着替えて部屋に戻れば、彼はイヤホン付けてゲーム中。数少ない一人の時間を満喫してるところ悪いが、お邪魔させてもらおう。

「前も後ろも敵、ここで耐えるしかないか。」

FPS中みたいで、独り言が丸聞こえ。バトルロワイヤル系のゲームで、絶賛ヤバい状況に見える。

三人とも静かに後ろに回り、その時を待つ。

「ダメだったか。まぁそれはそうなるよな。」

立ち上がる為に後ろに体を回したタイミングで、声をかけた。

「上がったよ。」

「惜しかったね。」

「ばあ。」

「うわあああああああ。」

集中していたから気づかないのは無理もないけど、流石にそこまで引かれると傷つく三人だった。ついでに水も溢した。

寝る時間になり、電気を消してから一時間ぐらいが経った。

生活リズムが壊れかけている道園みちぞのは、一瞬だけ眠れたが直ぐに目を覚ましてしまった。

「いない。」

同じ布団で寝ていた筈のまかないゆずが見当たらず、水を飲むついでに一階のリビングに向かう。

そこで彼も寝てるので、最悪彼女も近くにいるだろうと踏んで顔を出すと、彼に抱きしめられるように、彼女もソファで寝ていた。

「なんか堂々としてて凄いな。」

つまり私が寝たのを確認してから、布団から抜け出して彼の元に行ったことになる。

なんかそこまで来たら、むしろ清々しい。尊敬すら覚える。

一応写真に収めておいて、水を飲もう。

部屋に戻ろうとしたら、入れ替わりで白峰しらみねも出てきた。

「枕変わると夢見悪くなるの無理。」

「おつかれ~、今下行くと面白いの見れるよ。」

「ミカン先輩がそれいう時、大抵南雲なぐもが巻き込まれてません?」

「良いから良いから。」

「明日怒られる未来しか見えない。」

後日、ミカン先輩だけ起こられた。合わせて、珍しく南雲なぐもまかないを説教していて、二人揃って正座させられながら、ペコペコ頭を下げていた。

良かった、写真撮らなくて。

1人先に朝食を頂くことにした、白峰しらみねまいなのであった。

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