第三十一話 金なら腐るほどある
さて、凛々子の金銭感覚についてはひとだんらくしたわけだが。
ちょっと彼女が落ち込んでいるようにも見えたので、元気づけるためにもあえて冗談めかしてこう言ってみた。
「まぁ、将来的に俺たちが稼げる未来はないんだけどな! 凛々子、やっぱり俺との結婚はやめた方がいいぞ。まず就職できるかも怪しいからな」
「……ぴっぴがいるなら、貧乏でもいいよ」
「え。なんだよそれ、やめろよ。ちょっとドキドキするだろ……っ」
凛々子がいつもより大人しいのでやめてほしかった。
先ほどのことをまだ引きずっているのかな。黙っていたらただの美少女なので、勘弁してくれ。オタクは美少女が苦手なんだから。
『おや? 少し私が仕事で目を離している間に、結婚の話なんてしていたのかい?』
おっさんは暇さえあれば俺たちの様子を見ているらしい。
だが、今回は珍しく一部始終を把握していないのか。
「凛々子が勝手に言っているだけだよ。そもそも、この部屋から出た俺に他人を幸せにできる甲斐性がないし」
『ふむ。甲斐性ねぇ……就職ができない、という意味かい?』
「うん。誰かさんのせいでな」
お前が原因なんだけどな。
そもそも、おっさんがここに連れてこなければ、こうして悩んでいなかったと思うのだが。
「わたし、ぴっぴのためならブランド品は我慢できるよ?」
「ブランド品を我慢するだけですむならいいんだけどな……このままだと、二人分の生活費は無理だ。一人で生きていくのが精一杯だから、他のイケメンでも引っかけたが方がいいぞ」
「……ぴっぴがいい」
「わがまま言ったらダメだ。凛々子が幸せになるために、俺は捨てよう。ほら、こんなキモオタチー牛弱者男性ノンデリザコ虫と結婚なんて言ったら、親が泣くぞ」
「私のママの彼氏の方がクズだから大丈夫」
「……たしかにな。俺よりもうちの父親の方がクズだし」
俺たちの両親と比較すると、俺の人間性がはるかにマシな件について。
そうか。凛々子が俺に対して意外と評価が高いのは、周囲の人間がゴミすぎただけという説もあるか。
まぁ、彼女のことは嫌いじゃないし、本音をいうと好意がないわけでもない。
しかしながら、現状だと俺が彼女を幸せにできないことも事実なので……あまり執着させても申し訳ないなと、そう思ってあえて否定していたのだが。
『――安心したまえ。君たちの就職先は、私のコネで解決できるからね』
……チート野郎が、俺たちの不安を全てぶち壊した。
『ははは。私だって鬼じゃないさ。君たちをこの部屋に連れてきた以上、責任はしっかりとる。将来についての心配は不要だ』
このおっさん、どうやら金だけは腐るほど持っているらしい。
そのことは分かっていたのだが……もしかしたら、俺たちの想像以上の資産家なのかもしれない。
「そ、そんなことできるのか!?」
『もちろん。金があればできないことなどないさ』
き、汚い。
金持ち特有の下品な笑みである。しかし、今はその笑みが仏の微笑みにも見えるから不思議だった。
『二人とも、どうやら勘違いしているようだが……私の庇護下にある以上、君たちが不幸になることはないさ。安心してくれ』
かっこいい。
おっさんが、かっこいい……!
『金なら腐るほどある。君たちの人生くらい、どうとでもできる程度にはね……不幸にだって当然できるが、逆も可能だ。幸せにしてやることだって、金を使えばできる』
「ほ、本当か!?」
『ああ。私は貧乏人に厳しいことを言うような小さい人間じゃないよ。なぜなら――大富豪だからね』
この部屋に来てから、未来は絶望的だと思っていたのだが。
しかし、意外とそうでもないようだ――。
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m
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