モブAみたいなんですが──ゲームのモブに転生したけど多重クロスの二次創作みたいな世界なので楽しむ為にオリ主化します──
キキョウ
プロローグ
第1話
気づいたら転生していた。
いつだったか自分の置かれた現状を急に理解し、そこで自分が転生していた事に気がついた。
前世のパーソナルな部分はあまり覚えてない。名前とか、家族構成とかは……性別は男で、それなりの年齢まで生きていた、ぐらいしか覚えてない。
それになぜ転生しているのか、それも分からない。前世の最期は、痛くて苦しくて辛くかった。そういう喪失感があったのは覚えている。
神様転生という言葉と意味は前世の記憶から、知識として得ているがそれに当てはまるようなモノもない。
「エイモヴ、ご飯出来たわよ〜」
エイモヴ……これが俺の名前である。齢15歳。
特に特産品もないが、前世の記憶を思い出す前の俺が15歳になるまで遊び呆けられるくらいには、貧困から程遠い村に住む……名前の由来がモブAのただのガキ。
「……今行く!」
建築技術など発展している訳もなく、木造のただの掘っ建て小屋……その屋根上で意味もなく黄昏ていたが、母親にご飯だと呼ばれた為、屋根から飛び降りて家の中に入る。
「今日はお父さんが捕まえた鹿のお肉を焼いてみたの!」
そう言ってジビエ料理をテーブルに並べているのは、俺の母親であるイドバティーナ。
そんな母親に褒められて無口にも照れている様子を見せるのは、俺の父親であるカリュード。
この2人の他に、村の農家と結婚して家を出ている、アンナィという名前の姉が1人。
母親は村に設置された井戸の横で他のママ友と井戸端会議をするのが好きで、父親は村の肉事情を支える狩人の1人。
姉はたまに訪れる旅人に、ここは『ファステ』の村よ!と案内を良くしている。
さて、ここまでよく分かっただろう。
井戸端会議が好きなイドバティーナ。狩人の1人のカリュード。よく案内をしているアンナィ。
そしてモブAである俺、エイモヴ。
なんて典型的なモブが集まった家庭なのだろう。
だが、ウチが特別典型的なだけじゃない。
よくウチに顔を出す父の友人で、同じく狩人をしている人の名前はハント。
お隣さん家は、まだ子供に恵まれていないが旦那さんがノマル。奥さんがフトゥー。
まあ……ハッキリ言って異常だ。何がって?……この村の典型的なモブ感がだよ。
ただ、ひとつ。ひとつだけこの村に、明らかにモブでは無いと確信出来る奴が1人いる。
そいつは俺と同じ15歳。昔っからよく遊んでいたし、今でもたまに遊んだりもする。
容姿が良くもなく悪くもなく普通を極めているモブの俺達と違い、青……というか紺の綺麗な色をした髪。ダークブラウンの瞳。
線は細く見えるが、色んな人の農作業や困り事を手伝っているから筋肉があり、頼りなくは見えない。
よく村の娘に御伽噺に出てくる王子様みたい……なんて言われるほどキャラデザがしっかりしている、そいつの名は、シュヒト・コウ。
たかが農民や平民なんが持っているはずも無い苗字を持っているそいつの名前を少し変換させれば、主人公になる。
名は体をあらわすを地で行っているこの村の人々の名前から察するに……この世界の主人公なのだろう。
このゲームのような……昭和や平成に流行っていそうな……平凡なファンタジーRPGゲームのようなこの世界の。
「ごちそうさまでした」
「あら、もう食べちゃったの?……もしかして美味しかったからかしら?」
ウフフと口元に手を当てて上機嫌に笑う母親。振り子のように頭を縦に振り、まるで母さんの料理が1番だと言っているような父親。
「……まあね。父さんが取ってきてくれた肉でもあるし!」
当たり障りの無い返事と、本心を隠して表情を取り繕う。
上手く擬態出来ていたからか、母親は更に上機嫌になり、父親の世話が甲斐甲斐しくなる。それを満更でもなさそうにしながら享受する父親。
「(つまんね……)」
2人に対してではないが、心の中でそう吐き捨て家を出る。
家の横に置いてある父親の狩り道具などが置いてある倉庫の壁とそのすぐ近くにある木の幹を蹴って、三角飛びのように家の屋根に登る。
日が暮れると、満点の夜空に浮かぶ星々を眺めるという行為。前世の記憶を思い出してから、全てが退屈に感じる世界の中で唯一、綺麗だなと思えるような光景。
確か前世では街灯や窓から漏れる光、信号機やらなんやら……そういう光が地上にある分、星の光がかき消されよく見えないんだっけか。
まあ今になってはどうでも良い事か。
「……」
今俺が見ているのは前世の夜空とは違い、日が暮れたら本当に見えなくなるほど暗くなる、片田舎の村から見る夜空なのだから。
別に天体観測が好きな訳では無い。朧気な前世の記憶でも、特にそういうものを好んだ覚えは無い。
それほど退屈だという事だ。
1度死んだという事を思い出しているからか、虚無感に苛まれ。
前世を思い出す前の俺は、狩人・猟師である父親に教えを乞うていた訳でもなくただ遊び呆けていただけ。幼なじみと言える存在は主人公。
退屈や虚しさを感じてしまうのは……まあ、しょうがないと思ってくれ。
もちろん、このままダラダラと退屈な人生を歩むつもりは無い。ただ主人公であるシュヒトが、ここからどういう道筋で主人公として進んでいくのか……それを見届けたいから、こうやって意味の無い日々を過ごしている訳だ。
……隠れて体を鍛えたりはしているから、全く意味が無い訳でもないけどな。
「さて、そろそろ寝るか」
娯楽も何も無いこの村で夜にやる事と言ったら……まあ眠るか、R18な事をするか。
そんな事をする相手も居ないのでさっさと寝てしまおうと、天体観測を切り上げ、屋根の上から飛び降りる。
その瞬間、俺が立っていた掘っ建て小屋は轟音を立てて爆発した。
まだ地面に着地していなかった俺は、爆発の余波で吹き飛ばされてしまい、数メートル先を転がる。
痛む体に鞭打って顔を上げれば……今世の実家が見るも無残な残骸と化していた。
「に、逃げろー!魔族が出たぞぉ!!」
「キャー!!」
「た、たすけ…て……」
魔族。この世界の絶対的な敵だとされている魔物という怪物……それが力を持ち、知能を持った存在。
そんな存在がこの村を襲っていた。
家や人が燃やされ、その炎によって真っ暗な夜が照らされる。
切り殺される人。生きたまま食われる人。連れ去られる人。
まさに阿鼻叫喚の地獄というこの状況で……住んでいた家が燃える残骸となり、恐らく中に居た両親は死んでいるだろう状況で……俺は笑っていた。
「ああ、こういう感じの始まりなのね」
負けイベントという事なのだろう。
ゲームを初めて1番最初に起こるイベントとして、魔族が村を襲撃し、結果として主人公は力に目覚めるか、復讐を誓うか、正義感に芽生えるか……まあ、打倒魔族を掲げ奮起するようになるのだろう。
プレイヤー目線からすれば、急に始まった魔族との戦闘に「うわ、セーブしてねぇ……」となり途中で「いや、負けイベか」となるような……まあ、使い古された形式と言ってもいいかもしれない。
だが、今目前に広がっている光景は、前世のどんなゲームでも、どんな映画でも味わえない迫力があった。それこそ臨場感溢れる、なんて所の話では無い。
死んだ両親や知り合いに心が痛まないでもない。
だがそれ以上に、非日常というこの光景が、体験が、俺は何より新鮮で面白いと感じてしまっていた。
とりあえず死なない為にも、ある程度痛みが引いてきた体を動かして、崩れた建物の影に隠れる。
「さて、これからどうするよ」
自分に聞くようにそう呟く。主人公はそれこそ物語の主要人物なのだから、この魔族の襲撃が負けイベとはいえ死ぬ事はないだろう。
だが、ただのモブAの俺は他の村人と同じように呆気なく死んでしまう可能性はとても高い。
「はは、ゲームみたいに『セーブ』と『ロード』でも出来、れば…な……」
セーブ。セーブデータとも言う、ゲームの進行状況を保存し、後でその状態からゲームを再開出来るようになるシステム。
そのシステム画面が、今俺の目の前に現れていた。
【現在の状況をセーブいたしますか?】
【スロット1:セーブデータが存在しません】
【はい/いいえ】
「……は?」
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