第12話 作戦会議

山賊たちに襲われて、山神と呼ばれる銀髪のオオカミに救われた穂花と冬馬は、再度教科書に突入することを、ためらってしまっていた。


今回は本当に危なかった。


蘇我入鹿の時も、危険な目にあったが蘇我入鹿はそのページで討伐されることは、うっすらと記憶にあった。


だから心のどこかで、中臣鎌足と中大兄皇子が、登場するだろうなと、分かっていた。


「今回はあのオオカミが、守ってくれていなかったら…」


穂花は湯船の中で、そう呟いた。


「山賊なんて、教科書に載ってないじゃない。ズルよ。インチキだわ。」


穂花は教科書の出来事は、決まっていて、それ以外のイベントや登場人物はいないと決め込んでいた。


「そうか、鑑真和尚さまの従者、光来坊だ。彼は教科書に出てこない人物なんだ。」


穂花は教科書に出てこない人と接すると、反動でいわゆるモブキャラが登場するのではないかと想像した。


この考えは、冬馬とも共有しなくてはならない。


「この謎を確認するには、また聖徳太子さんに、会わないといけないのかしら」

穂花はこの祖父を教科書から救い出すという、ミッションが想像以上に困難なものであることに、今更ながら身震いをした。


今日はペンションの仕事にも、疲れを感じてしまっていた。


夜も9時を過ぎているし、明日の朝も早い。

いくら、現実世界では時間が経っていないとしても、教科書の世界では3時間も4時間も、歩いたり、走ったりしているのである。


「おまけに、今回はもう少しで本当に死にそうだった。」穂花は浴場の天井を見上げる。


(とにかく、今日はぐっすり寝よう。)


ーーーーーーーーーーーーー


次の朝、ペンションの仕事をこなして、午後の休みに、祖父の書斎で冬馬と作戦会議をすることにした。


まず、穂花が質問する。


「ねぇ、冬馬くん、あの懐中時計って、いきなり室町時代に飛べないの?」


「僕もわからないんだよ。だからもう一回、太子おじちゃんに聞いてみようかなと、思っていたの」


「次、教科書に入ったら、聖徳太子さんのところへ行けるの?」


穂花も聖徳太子に会った方がいいと思ったいたので、その案はいい案だと思ったのだ。


冬馬は少し考えて首を横に振った。

「多分、今度入っても平安時代から始まると思う。出た時代にまた戻ると思うんだ。」

穂花もそうだとは、思っていた。

飛鳥時代から出て、また入ったらそこはまた、飛鳥時代だったからだ。


「ということは、聖徳太子さんにも会えないし、いきなり室町時代にも、いけないのよね?」


「そうだと思うんだ。室町時代まで、まだ何ページもあるし、あんまりのんびりはできないよね。」と冬馬は穂花をじっと見る。


「え?私?ダメよ。あと9日後には、大分に帰らないと。宿題もあるし。」穂花は顔の前で手を振って冬馬の考えを否定した。


冬馬は「ちぇっ」と言って、手を頭の後ろで組んだ。


「誰かいないかなぁ?太子おじちゃんくらいの頭のいい人さぁ」と冬馬がぼやく。


「頭のいい人?…学問の神様?…菅原道真…そう!平安時代には、菅原道真がいるわ!」


穂花は、そう叫んで立ち上がった。


「すがわらみちざね?誰それ?」と冬馬は、穂花の興奮の意味がわからないでいた。


「学問の神様よ!学問の!平安時代に入ったら、まず、彼を探すわよ。」


「すぐ見つかるかなぁ」


「実際している人物で、文献も残されているから、会えると思うわ。それに教科書の中の登場人物には、会える確率はとても高いはずよ。」といささか、興奮気味の穂花であったが、


「でも、教科書に出てこない人に会うのは、少し危険ね。

光来坊さんに会ってから、山賊に会ったから、なるべくモブキャラは避けないと…」と穂花は急にぶつぶつと小声になってしまった。



「じゃあ、その辺の作戦はお姉ちゃんに任せるよ。僕は武器を揃えるから。」


「武器?刀もっている武士に真っ向勝負なんて危ないわ。

カッターナイフくらいじゃ、なんの役にも立たないわよ!」


「そんなことしないよ。今回の山賊の件で僕もわかったことがあるんだ。」


「何よそれ?」


「まあまあ、揃えてから説明するよ。」


「危ないものはダメよ!」


「分かってるって、じゃまた明日、午後2時にここに集合ね。」


そう言って、冬馬は書斎を飛び出して行った。

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