第11話 扉の前の決意

 森を抜け、足元の岩肌がごつごつとした地形に変わっていく。


 しばらく進むと、ぽっかりと口を開けた洞窟の入り口が現れた。空気は冷たく、内部からは風のような音が微かに聞こえる。


「ここが……ボスエリア?」


「うん、間違いないよ」


 イリスの声が、いつもより少しだけ真面目なトーンになっていた。


 洞窟を進むにつれ、壁面にはひび割れた紋章のような装飾が現れ、明らかに自然のものではない人工的な空間へと変わっていく。そして目の前には、巨大な金属の扉。


 表面には竜の姿が刻まれており、そこから発せられる威圧感に、思わず息を呑んだ。


「……いかにも『この奥にボスがいますよ』って雰囲気だな」


「へいへいへーい、悠くんビビってる〜〜♪へいへいへーい」


 緊張を和らげようと、イリスがおどけて歌い出す。


「……ビビってないし、ちゃんと構えてるし」


「えー? 本当に? じゃあ今の顔、ビビり顔ランキングでトップ3には入るよ?」


「そんなランキング、誰が審査員だよ……」


「私だよ! ナビゲーター兼彼女のイリスちゃんでーす!」


 くだらないやり取りに、ほんの少しだけ緊張が和らぐ。


「でも、マジで緊張感あるな。ドラゴン相手って、やっぱスケールが違う」


「でも大丈夫。攻略法は全部教えたし、身代わりのネックレスもある。そして何より——私がついてる」


 イリスの瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。その眼差しは迷いがなく、言葉に力がある。


「悠くんが私を信じて、言う通りに動いてくれたら、絶対に死なないし、絶対に負けない。だから、何にも心配いらないよ」


「信じてるよ。イリスのこと。ここまで無事に来れたのも、全部イリスのおかげだしな」


「ふふ、やっと素直になったね」


「ま、最強の彼女だしな。これからも頼りにしてる」


「任せて。完璧に導いてあげる。悠くんの最強サポート役だからね」


 俺は大きく息を吸い込むと、目の前の扉をじっと見据えた。


「ねえ、悠くん。ここまで来ると、扉の奥がちょっとだけ見えるんだけど……」


 イリスがぽつりとつぶやくように言った。


「え、マジで? どうなってるの?」


「うん、完全じゃないけど、うっすらと……。この先には、まだダンジョンが続いてるみたい」


「ボス戦の後に、まだダンジョン……か」


「つまり、ダンジョンデート継続ってことだね」


 楽しげに言うイリスに、思わず苦笑いがこぼれる。


「まぁ、イリスが一緒にいるなら、なんとかなりそうな気がする」


「でしょ? 悠くんには私がいるから、安心していいの」


「じゃあ、まずはサクッとドラゴン倒してこようか」


「よし、気合入れていこう」


「うん! 悠くんなら絶対できるよ!」


 イリスの笑顔に背中を押されながら、俺は深呼吸し、扉の前に一歩進んだ。

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