第5話 落日、そして最初の告白
七瀬アミは、屋上に立ち尽くしていた。
膝が震えていた。
目の前にいるのは、かつて“悪意の象徴”とされた元いじめっ子――終夜。
でも、今の終夜は、ただの過去の亡霊なんかじゃない。
理知と暴力、両方を操り、自分の牙を根こそぎへし折ってみせた。
「……っ、冗談じゃない……こんなの、認められるわけないでしょ……!」
彼女は言葉を絞り出すように吐き捨てる。
「どうして……あなたみたいな人間が、こんな顔して、“正義”みたいな真似してるのよ……っ」
終夜は表情を変えず、淡々と答える。
「僕は、正義じゃない。
ただ、“悪を知っている人間”として――お前を止める」
「ふざけないで……あなたは、私と同じ、いや、それ以下の人間よ……!」
アミの叫びに、終夜は眉一つ動かさなかった。
「同じ、だよ。僕も君も、“誰かの顔を踏んで、生きてきた”」
「だったら……っ、あなたにだけ、“正しさ”を語る資格なんて――!」
「――ないよ。僕には、そんな資格はない。
でも、“僕に踏まれた人たち”に、未来を壊されたままにしていい理由にもならない」
一瞬の静寂。
アミの肩が揺れた。
「……なによ、それ……同情? 贖罪? 綺麗事?」
「君に向けたものじゃない。……あくまで、僕自身にとって必要な選択だ」
「……っ、わたしは、わたしの“正しさ”を選んだだけよ。
わたしを無視して、わたしの努力を踏みにじったあいつらを……見返す方法を……」
その目には、かつての優等生の輝きが、かすかに残っていた。
だが、終夜はそこに“もう一つの影”を見ていた。
「……七瀬アミ。君は“正しさ”を選んだんじゃない。“賞賛されること”を選んだんだ」
「――!」
その言葉は、アミの中に深く突き刺さった。
心の奥で、ずっと隠していたものを――暴き出す言葉だった。
「君はもう、生徒たちの尊敬を得ることよりも、“敵を消す”ことを優先してる。
その時点で、君の“正しさ”は、もう君自身の中にはない」
アミの頬に涙が一筋落ちた。
だがそれは、屈辱か、怒りか、あるいは――救いを求める心か。
「……壊してよ、私のこと。
終夜くん、“元いじめっ子”なんでしょう? だったら、私みたいな人間、簡単に壊せるんでしょう?」
終夜は目を伏せ、ゆっくりと首を振った。
「壊すのは簡単だよ。……でも、もう、それはしないと決めた。
僕は今、“誰かの人生”を取り戻す側に立ってる」
アミが膝から崩れ落ちた。
その時、背後から足音が響く。
「終夜、そろそろ“次の依頼”を受けてくれるかしら?」
氷堂カエデ。
淡々とした声とともに、タブレットを差し出す。
「七瀬アミを含め、最近校内で起きた“匿名告発”の一部が偽装だったと、学年主任が気づいたわ。
でも、それを告発した人間の中に、“本物の闇”がいた」
終夜は画面を覗く。
そこには、生徒名簿とともに、新たな“ターゲット”の資料が表示されていた。
カエデは小さく笑う。
「この学校には、あなたの力がまだ必要よ、“終夜”くん」
彼は屋上の夕焼けを見上げながら、静かに答えた。
「……じゃあ、始めよう。次の制裁を」
元イジメっ子、美人生徒会長の依頼で腐った学園を改革する @knight-one
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