良いですね、こういった落ち着いた雰囲気漂う、大人の隠れ家のような場所、そしてそれを想わせるしっとりとした文体。
作品の心地よさが実に染みわたります。
そして、人生の渋みが滲み出るマスターから提供される、その場に的確な珠玉の一杯。
数多くのお酒に精通していなければ提供できませんし、それをさっと出せる頭の回転の良さも試されます。
そして、更に添えられる、相手に寄り添った静かな言葉の数々。
マスターの人の良さと機転がキラリと光ります。
恥ずかしながら私はお酒には非常に疎い上に、繊細な味の違いがあまりわからない未熟者なので、こういうかっこいいお酒の知識を活用した作品に、憧れと嫉妬を抱いてしまいますね。
まさに、違いの分かる大人にふさわしい、味わい深い作品でした。
皆さまはこの作品を、どんなお酒とともに楽しまれますか?
本作はキャッチコピーに「何も起きない物語」とある通り、BARに訪れた客と店主の対話を軸にした一話区切りのショートストーリー集である。
訪れる客の描写も、男、女、とだけあり、年齢も容姿も服装も、全て読者の想像に委ねるかたちとなっている。
そのため読み手によっては、地の文が素っ気なく感情移入しづらいように感じるかもしれない。
しかし本作はあくまでBARの店主目線で描かれており、彼は客の話を黙って聞き、頷き、そしてただ認める。
そこには感情移入や共感はなく、否定も肯定もせず、ただその人の人生をそのまま受け止める。
どこか遠くに感じる客との距離感こそがまさにBARそのものであり、相手の感情に寄り添い共感してしまったら、それはもう違う業態なのだから。
マスターの加藤尽の視点となり、訪れた客の人生を少し遠くから見守る
あなたもBARという空間を体験してみてはいかがでしょうか