瑠璃天井の光線

椋鳥

負ける者たちの戦い

「ごめんなさい」響き渡る声。この暗い場所じゃ、当然かもしれない。ふと両手を見ればわずかに震えていて、情けないことこの上ない。僕、甘都宇吉郎は振られている。いや、葬られている。それが分かった途端、体から力が抜けるのだ。


「こっちこそ、ごめん」口から出てくるのはありきたりな言葉。ああ、今日はやけになってしまおうか。そんな事を思っても、表には出せない。彼女の華奢な体から、目をそらしてしまいたい。


「じゃあね」そういったのは、長い金髪の麗しい人。恋い焦がれた年月だけなら三年を軽く超すだろうその人に、僕は背を向ける。何が見られたくないかなんて、言わなくても分かるだろう?わからない奴は、ブラウザバックして欲しい。そんな意味不明な文言を垂れて、僕は現実から逃げる。


「うん」諦めたくない思いが、こんなにもあるのに。今日で卒業だなんて、あんまりにも残酷だ。彼女の名前は、天井画原名。めいさん、そう読んで日々を謳歌することを僕は理想としてる。でも、ああ。なんて残酷なんだろう、この張り裂けんばかりの独りよがりも今日で散るのだ。


……


「悪い」あからさまな態度で、長身の男は言う。その表情はとても毒をはらんでいて、男の僕ですら綺麗だと思うほどだ。いや、ちょっと待て何だこの状況は。地面の水たまりに反射して、僕の情けない顔が映る。


「私、ずっと……」おーまい、なんてこった。偶然にしてはできすぎているぜ兄弟、こんな展開あんまりじゃないか。僕の三倍くらい顔を歪ませて、天井画原名は目を擦る。なんで、こんなことになる。僕の思いなんて、神様仏様にとってはこんなものだったのかい?人格否定も甚だしいこんな偶然に、なんて言ってやれば良いのか。


「?」やべっ、気づかれた。長身の男は水桶通盗、僕の初恋をかんたんにへし追ってしまう恐ろしい野郎。何もかもがぐちゃぐちゃなのに、こんなのあんまりだよと僕は言いたい。僕が恋い焦がれたことが、独りよがりなことは分かるよ。でもこれってあんまりじゃない?振られた側としては、もうちょっと感傷的になりたいのだが。


「いだい」地面に、顔をぶつける。ああもう、こういうところだよ僕は。分かってたんだよ、重なることぐらい。奇跡的に土の味はしなくて、かったいコンクリートが僕を出迎える。いっだいと強く叫ぶけれど、それは表に出ない。名さんの前で、そんなかっこ悪いことはできない。


「誰だよ、お前」遠く高いところから、僕は見下される。悔しいとか苦しいとか、タイミング悪すぎとか疲れたとか。もう分けわかんないくらいどうしようもなくて、それでも喚けない苦痛。全部全部飲み込んで、立つしかないんだ。


「甘都宇吉郎!」ありったけの饒舌で、僕は叫ぶ。負けたくないから、同仕様もないから叫ぶのだ。ああ、逃げ出してしまいたい。泣き叫んでしまいたい欲求をこれでもかと抑えて、僕は歯を食いしばる。なんでこうなんだよ、と何度も思う。どうしようもないだろ?ほぼ逆ギレで、そこに行き着くまでの考えは自己中で。


「えぶしっ」こういうところだよ。たまたまそこに転がっていた空き缶に、足を滑らせるところ。ああ、最役だよ。僕は寝っ転がるようにして、地面に頭をぶつける。

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