彼氏禁止の風紀委員長が僕にだけ激甘

@noozu

1章

第1話 風紀委員長は恋をしてはいけない

恋愛は――校則違反である。

 少なくとも、この聖桜学園では。


「校内でのいかなる恋愛行為も禁止とする。生徒同士の交際発覚時には、風紀委員による指導を行うこと」


 そう書かれた新たな校則が、昨日から校内に堂々と貼り出された。

 その制定を主導したのが、この人だ。


「あなた、さっき女子生徒と目が合ってましたね。不純異性交遊予備軍です。反省文、三枚」


「厳しすぎるだろッ!!」 


 聖桜学園の風紀委員長・氷室しおり。

 容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群。まさに完璧超人。

 でも、それは――表の顔だ。


「天野くん、ちょっと来なさい」


 その冷たい視線で俺――天野悠を睨みつけた彼女は、ズカズカと歩み寄って俺の腕を引いた。


「えっ、えぇ!? なんか俺やらかした!? っていうか、引っ張るな、手ぇ繋ぐな! 風紀風紀!!」


 そのまま連れて行かれたのは、校舎裏の人気(ひとけ)のない場所。

 そして、しおりは周囲を確認したあと、くるりと振り返って――。


「……んっ♡」


「ふぇっ!? な、なにその唇の形!?!?」


「……バカ。朝のキス、してない。しないと、落ち着かないって言ったでしょ?」


「誰が!? え、いや言ったけど!! 風紀どこいったの!!?」


 はい、俺、氷室しおりの彼氏です。

 ただし――極秘です。


◇ ◇ ◇


 付き合い始めたのは三ヶ月前。

 図書室で偶然出会ったとき、彼女が落とした恋愛小説を拾ったことがきっかけだった。


『バ、バレたからには……責任とって、付き合って……っ!』


 ――と、なぜか俺に逆告白。


 それ以来、風紀委員長は人目を避けて、俺にだけ猛烈に甘えてくる。


 手をつなぎたい。頭撫でてほしい。キスもしたい。

 彼氏成分が不足すると不機嫌になる。


 でも表では「恋愛は風紀の敵」と豪語する超堅物委員長。

 そのギャップが俺の心臓に悪い。


「ねぇ、放課後……空き教室、来てくれるよね?」


「な、なんの用だよ……?」


「取り締まりよ。あなたの風紀、最近緩みすぎ♡」


 この人、風紀の意味を完全に履き違えてる……!!


◇ ◇ ◇


 放課後。指定された旧校舎の空き教室。

 人の気配はない。


「はい、頭撫でて」


「風紀ぃ!!」


「“精神の安定は風紀の基本”って書いてあったでしょ? 私にとって“彼氏成分の摂取”は安定剤なの♡」


「根拠がどこにもないんだが!?」


 机に座らされて、頭をなでなで。

 膝枕に移行される前に止めたい。これはもうラブコメどころか公然猥褻未遂では!?


「ねぇ……バレたら、どうする?」


「そ、それは……やばい、よな……」


「そのときは……逃げるわ。どこまでも。あなたと一緒に♡」


「なにその恋愛逃避行ルート!?」


 やばい。この恋、明らかに校則違反なのに、めちゃくちゃ幸せだ。


◇ ◇ ◇


 そのとき。


 ガラッ、と教室のドアが開いた。


「しおりー? あれ、ここにいたの?」


 副委員長・百合川さな。

 しおりの親友にして、恋愛に対して勘が鋭い、俺らにとって最大の天敵。


 やばい。終わった。詰んだ。バレたら俺、風紀委員に粛清される……!


「こ、これはその……指導よ! 天野くんが最近スカートを覗く癖があるって……!!」


「えええええええ!? 濡れ衣やめて!? 殺される!!」


 百合川はジト目を向けながらも、「ふーん」と意味深に笑った。


「しおり、最近ちょっと柔らかくなったよね~」


「そ、そんなことないわ」


「もしかして、恋してる?」


「……っ!」


 しおりの肩がピクリと震える。俺の心臓も止まりそうになる。


 だが彼女は――


「恋なんて……風紀の敵よ」


 冷たく、いつもの調子で言い切った。


 けれどその直後。机の下で、そっと俺の手を握ってきた。

 その指は、少しだけ震えていて、あたたかかった。


(バレたら全部終わり。でも、こんなふうに繋がっていられるなら――)


 この甘くて、秘密で、校則違反な関係。

 だけど、それが今の俺の、何よりの幸せだった。

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