42話【姉との再会…?】
ーーーマリエッタ視点ーーー
【富裕層エリア、商店街】
右を見ても、左を見ても、私の住んでいたライラ、故郷とはえらい違いだった。ライラでは良くて煉瓦積みの建物、普通なら木造の建物が主流だ。だけど、目の前の光景に広がる数多くの建物は材質が違う。アシュラさんから聞いたけど、鉄筋コンクリートという物で建てられているという。コンクリートというのは何だろう? アシュラさんに聞き返してみたけど、本人もうまく説明できないという。専門の職人さんでないと、説明は難しいのだそうだ。あと、商店街の店先に並んでいる商品も高級そうで、物の価値も私の故郷とかなり違いそうだ。謎は深まるばかり。私は知らない世界を知っていくのが好きだったのかなと疑問に思ってしまう。私はこの異世界にも似た、異文化に触れてウキウキしていた。食材を取り扱っている店を見かけた。私は自分が料理ができることもあって、つい立ち止まって見入ってしまう。その店の店主が商品を売りつけようと声をかけてくる。
「いらっしゃい! ぺっぴんさんだね! どうだい! 全部新鮮だよ! おすすめは、このお肉かな。うちの牧場で飼育している、ブランド物だよ!」
「霜降りも綺麗で、脂っこくなさそうで良さそうですね…!」
私は店主に勧められたお肉をガラスのショーウィンドウ越しから眺める。他にもお肉は沢山あり、眺めているだけで楽しい。お野菜もあったから、手に取ってみた。みずみずしくて、こちらも新鮮なのがわかる。そうしていたら、ガブさん達もまじまじと食材達を眺める。だがどれも質の良さの違いがわからないようで、飽きて他の方を眺めた。だけど、デンさんは違った。食材を手に取り、店主を褒め称えた。
「これは良く肥料が行き届いた野菜だ。店主。これは貴方が?」
「いえ、野菜はうちの家内と子供達に任せてますよ!」
「ほう…子供が育てたとは思えない…」
「ほんと、私もビックリです…!」
私も子供達が育てたと聞いて驚く。デンさんはライラでは畑のお仕事をしていたから、お野菜や果物に関しては目利きが通る。腕もいいから、私はお屋敷にいた時はよくデンさんの商店に足を運んだ。一通り目利きをしたデンさんは私の目利きにも誉めてくれた。
「上達しましたな。最初の頃が懐かしい」
「あの…恥ずかしい過去の事はいい加減忘れてください」
「はは。あと10年は必要ですな」
私はお屋敷でメイドとして働き出して5年くらい経ったあたりから、炊事担当として任命された。そのすぐくらいには当時の先輩に連れられて、デンさんの商店へと勉強も兼ねて荷物持ちとして同行していた。それから10年と少しは経ったかもしれない。その年月の揚げ足をとって、もう10年は必要だと言うのだ。デンさんは私にはちょっとしたところでいじめてくるところがある。私も良い歳だから、もう忘れて欲しい。歳の事を考えていたら、デンさんが失礼な事を言ってきた。暫くは忘れられないだろう。
「あと10年というと、30中頃…いや、40位かな?」
「もう! 失礼です! デンさんのご飯は当分、お茶漬けだけですから!」
楽しそうに笑うデンさん。私は反対に怒りの頂点だ。そうしていたら、店主が困った顔でこちらを伺ってきた。
「あの…買わないんですか? それとも…冷やかしです?」
「い、いえ! 買います…けど、後でまた伺います! 今買ってしまうと痛んじゃうから」
「…本当ですか? 保冷剤ならありますけど」
「…保冷剤?」
店主の言葉を聞いて、私の聞いたことのない単語だったから頭がハテナになってしまった。その困っていた私を見ていたアシュラさんが助言をしてくれた。
「温度を低く保ってくれる氷の様な物です。ここで買って行っても、問題ないですよ」
「あら、そうなんですか? それでしたら…」
アシュラさんのフォローもあり、私は目ぼしい食材をどんどん選んでいく。人数が多いから、お肉はキロ単位で買えるのかも確認する。店主は少しビックリしていたが問題はないようだ。そうして、食材は一通り買い揃えた。調味料は船、いや、艦の調理場に沢山あるから大丈夫だ。…船って単語がまだ抜けない。慣れていかないと…。
何故、そう思ったかというと。私はあの艦でお世話になる事にした。エレナとヘルツの事もあって、彼女達がこれから旅立っていく宇宙に、私も旅立っていきたいと思ったの。二人の亡骸を収めた収容箱を両手に添えて泣き疲れた後、ふとそう思った。もしかしたら、私はエレナとヘルツの事を私が思っている以上に想っていたのかもしれない。そんな自覚はなかったけど、認めなくてはいけない事実だ。それに、ユーリィ様達がライラに帰っていったとしても、私がライラに帰れないという訳ではないわ。ルンさんが相談に乗ってくれて、ソレイユ号がライラに行く都合がなかったとしても、別の航空艇を用意して帰ればいいと教えてくれた。その話を聞いていたジーン君がその時には私に操縦を教えてくれるとも言ってくれた。その色んな事が重なって、私はソレイユ号の船員になると決めた。お屋敷の時の役割と一緒で、炊事担当として生きていこうと思ったんだ。
店主が私達が買っていく量に驚きながら、アシュラさんと会計を進めている。それを驚いているのは店主だけではなく、ついて来てくれた他の3人も同様だった。
「おい。グウ。肉はおめぇが運べよぉ?」
「しょうがねぇな。よっこらせっと」
「おめぇ、ほんと腕力はすげぇなぁ」
「ガブ。お前がガリガリすぎるだけだ」
「おうおう! この腕を見ても、まだ言うかぁ!」
ガブさんはグウさんの挑発に乗り、腕を捲って見せた。引き締まった筋肉だ。だが、グウさんには遠く及ばなかった。そのガブさんの筋肉を見て、グウさんは嘲笑する。
「ガリガリじゃねぇか」
「おめぇの腕が丸太なだけだろぉ!」
「はいはい。二人とも落ち着いて…! 行きますよ?」
私はアシュラさんの会計が済んだのを確認して、二人の仲裁をした後、先導を切って進んだ。二人はまだ言い争いをしているが、ちゃんと私の言葉を聞いてついて来てくれた。デンさんは二人とは少し距離を置いた場所で、お野菜を持って歩く。アシュラさんも最後尾についている形だ。
次に立ち寄りたい場所は…と、メモを取り出す。残りはまだまだ沢山ある。一回、艦に戻って荷物を置いて来た方がいいかな…? そう悩んでいたら、小さい子供が私と少しぶつかってしまった。私の方は体重差があるから、転ぶ事なく難を逃れた。手元に持っていたメモがどこかへいっていないか確認する。よかった。ちゃんと持っていた。だけど、私はある違和感を覚えた。懐に持っていた、幼い頃から大事にしていた懐中時計がなくなっていた。私はすぐに辺りを見回した。懐中時計はどこにも落ちていない。だが、先程ぶつかった子供の手にうっすらと、私の懐中時計が見えた気がした。私は察した。ライラではないが、他の街でも良くある話。盗まれてしまったんだ。私はどうしても、その懐中時計を手放したくなかった。それは親の忘れ形見だったから。私はすぐさま子供が消えていった場所へと後を追った。後ろからガブさんの声が聞こえる。私は後ろ髪に引かれることなく、路地裏へと走った。
【スラム街、ある路地裏】
「はぁ…はぁ…はぁ…」
遠くへと走って来てしまった。普段の運動不足を、私は心より呪った。お屋敷ではメイド業を卒なくこなしていた自信はあって、少しくらいの体力の自信もあった。だけど、歳の差には勝てない。子供の運動能力は時に大人の体躯を持ってしてもついていけないのだ。その真実を私は突きつけられ、立ち止まりこうして息を切らしている。深呼吸を何回かして、少年が走っていった方向へと見る。だが、その先には暗闇しか伸びていなかった。完全に見失ってしまったのだ。
「はぁ…はぁ…、どうしましょう…。大事な物が…、はぁ…はぁ…。もう、あの子の姿も見えないわ」
もう、どうしようもない。諦めるしかないのかもしれない。だけど、どうしても取り戻したい。どうすればいいのかと、考えを巡らす。でも、答えは出ない。この惑星には今日初めて来たばっかりだから。
「諦めるしか、ないのよね」
私の努力は水の泡と化し、路地裏から出て、広場の方へと戻るしかなかった。
それでも、諦め切れず、広場の至る所にある路地裏の入り口を見つけては中を覗いた。だが、その子供は居ない。私はその行動を何回も、何回も繰り返した。それでも、子供は見つからない。
そうしていたら、ある男性にぶつかってしまいそうになる。だけど、すんでのところでその男性に気づいて、ぶつからないように私は足を止めた。私は反射的に謝罪をする。
「ごめんなさい! 急いでいたもので! 邪魔になってしまってごめんなさい!」
私はその男性の顔を見もせずに頭をずっと下げ続ける。
何秒経っても、その男性からの声が聞こえてこない。どうしよう。怖い人なのかな? どうしよう。どうしよう。
そうしていたら、10秒も遅れて返事が返ってきた。その声は、低くしゃがれた青年の声だった。
「あ、うん。…う?」
「…え?」
何故か困惑した声をあげるその男性の顔を、ゆっくりと私は頭を上げて確認する。
その男性は、少し赤みのある黒髪短髪で、顔立ちは呆けた顔が良く似合う薄目をして、口元が半開きをしていた。私の想像していた、怖い人ではなく、間抜けな顔をした青年がそこにいた。その青年は、私の顔を見て、呆けた顔が似合う半開きの口をゆっくりと閉じた。瞳からは明らかに動揺していた状態を窺えた。その男性は、私を見てこう答えた。
「おねぇ、ちゃん…?」
「…はい?」
私は、なんてところに来てしまったんだろう。どうしましょう…。
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