第26話
完成した魔石をさっそく届ける。眠い目をこすり出かける用意。
「しまったね。いつ頃行けばいいか聞かなんじゃったよ」
今はまだ早朝。誰もいない可能性もある。
「ああ、多分誰かしらはいるよ。チェルは住み込みだしね」
とりあえず行ってみることにした。早く寝たい。
急ぎらしいし魔石の納品はさっさと済ませてしまおう。
工場の近くまで来ると相も変わらず金属の音が鳴り響いている。
すでに作業に入っているようだ。
私は工場のドアを数回ノックする。うるさくて聞こえないかも?
しばらく待つが誰かが対応してくれる様子はない。
「あれ。このドア空いてるね。入っちゃってもいいかな?」
「それに渡すにも出入り口じゃあね。中に入ってだれか探そう」
モディとともに工場内に進む。中は意外と広い。
奥の方に人影がある。そちらに向かった。
そこにいたのはチェルさんだった。
「おはようございます。チェルさん」
「あら、ステラとモディ。おはよう」
なんだか眠そうなチェルさん。彼女も徹夜で整備をしていたらしい。
「魔石出来たんですね?」
「はいここにあります」
魔石を渡す。出力は魔石の大きさで大体決まる。
壊れていた時の大きさをもとに同じ出力になるように合成してある。
「完璧です。ここまで出力の安定した魔石は初めて見ました」
「どうやら十分な品質で納められたみたいだね」
これで納品も終了。今日はニコラが戻ってくる日だ。
一度帰って寝たい。もう眠気が限界に近い。
「代金はいくらほどでしょうか?」
「そっかお金。相場がわからないんだよね……」
ただというわけにも行かない。
調合設備の運用に魔石を使ったり薬品もつかう。
経費分くらいはもらわないと生活できない。
「二千ミャーレルぐらいでいいんじゃないかな?」
モディの談。魔石は持ち込みだったからそのぐらいでも元は取れる。
いいんじゃないだろうか?
「毎度あり。また何かあれば頼ってよ」
「はい、ありがとうございました」
私とモディは工場を後にする。その途中作成中の魔導車も見せてもらえた。
前側が尖った流線型の車体。小さいから二人乗りみたいだ。
「じゃあ、大会頑張ってね」
「はい、お世話になりました」
ぺこりと頭を下げるチェルさん。私たちはニコラの家に帰る。
帰り着いた家で私は休憩をとる。私が寝てる間はモディは街に一度もどるらしい。
戸締りをしっかりして二階のお部屋でゆっくり休んだ。
寝てお昼を回ったころ。来客のベルの音で目を覚ます。
「モディは、まだ戻ってきていないね。誰だろう」
モディなら鍵も持っているしベルを鳴らしたりはしないだろう。
ニコラも戻ってきたら自分で中に入ってくるはず。
ドアについた覗き穴からその人物を見る。
それは数日前に見た顔だった。
「キキ。どうしてここに?」
あのリッチ事件の妹だった。姉の方の姿はない。
どうしてここへ。嫌な予感。
「悪い。剣姫様はいるか?」
「いないよ」
「ならあんたでいい。助けてほしい」
またかよと思う。厄介ごとであるのは確定だ。
「まさかまたお姉さんがアンデッドになったとか言わないよね?」
「そこは違うよ。姉さんは隣町で仕事を始めてる」
「じゃあ助けてってどういうことさ」
私は話を聞く。
「悪い奴に金を借りてしまってその借金のかたに姉さんが狙われてるんだ」
「おう、割と重大な話だ」
「姉さんを助けるには明日までに一万ミャーレル用意しないとなんだ」
借金の申し込みに来たようだ。残念だけどこの依頼は難しい。
私はお金をほとんど持っていない。
もしニコラが帰ってきても貸すことはないだろう。
この子たちが返せる保証はどこにもない。
「この前の秘密は守るから何とか貸してくれないか?」
「おおっと、こいつ地味に脅してきたな」
私たちの秘密を領主のおばさまに話そうということか。
そんなに口封じされたいのかな?
モディとニコラなら容赦なくしそうだ。
「そうだね。口封じしちゃう方がよかったかも」
キキの真後ろにモディとニコラが立っていた。
ちょうどニコラとモディは帰って来たらしい。
「まあ、話だけは聞いてあげますとりあえず中に入りましょう」
「家に上げたとたんにバッサリとかはやめてくれよ?」
キキは少し震えながら家に上がる。
まあニコラも話は聞いてくれるらしいし殺しはしないだろう。
まとめるとこうだ。
お姉さんは隣町に移り治癒師になったらしい。
そのために魔石を買ったのだという。その時に借金をした。
その相手がやばい奴で利子が膨れ上がり明日までに一万ミャーレルがないとお姉さんの身が危ないということなのだった。
「なんてバカバカしい。よくある話じゃないですか」
「よくある話か。やっぱ悪人多すぎだなこの世界」
「ちょっと気の毒だけどどうせ一万じゃすまなくなるよ?」
利子の分だけで一万。元金の返済もしないとだろう。
騙されてしまったのは気の毒だがこちらは無関係だ。どうにもならない。
「人一人の人生がかかってるんだ。助けてくれよ」
「人生ですか。なら命の対価にあなたは何を差し出しますか?」
ニコラは私に会った時の質問をした。
何が正しいのかわからない。正解はないのだろう。
私はニコラを楽しませたいと思った。
いま彼女は面白おかしく暮らせてるだろうか?
聞いてみたい気もするし少し怖い気もする。
「わかった。ならオレはあんたの奴隷になる」
「おいおい。言葉の意味わかってて言ってるの?」
私はあきれて思わず話に割り込む。それじゃ意味がないだろう。
お姉さんは助かってもキキの身が奴隷なら同じことだ。
「奴隷ですか。生憎とそういう趣味はありません」
「あれ、私の時は遠回しに奴隷になれって言ったのに?」
「昔のことは忘れました。それに今はステラがいるから必要ありません」
そうだった。私はペット枠。
そしてたまに抱き枕だったりする。奴隷よりはましだけどちょっと泣けてくる。
「どうしてもだめか?」
「仕方ない。お金を貸しましょう」
「対価は?」
「対価は人体実験の被験体です」
「「うぇ?」」
私とキキは同時にうめいた。
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