第16話
魔導弾を手にし地下水道に赴く。
水音のせいで奥の方のアンデッドの気配を探るのが難しい。
いつものごとくニコラが先行。その後ろを私、少女、モディの順で探索する。
はっきり言って過剰戦力だ。
順調にアンデッドを倒しながら奥に進む。
最近は何とかゾンビー相手でも戻さずに狩りができるようになってきた。
人殺しに慣れてしまったことは悩ましいところだ。
でもこれもお仕事、切り替えていこうと思う。
「まだお姉さんはいないですね」
狭い通路をニコラは進みつつ索敵する。死臭はしない。
あまり数はいないのだろう。その方がいいに決まっているがちょっと不気味だ。
「あんまりアンデッドいないよね」
「街の中です、そうそう増えられても困りますよ」
ごもっともなことをニコラは言う。
街中で殺しが多いようでは安心して暮らせない。
水道である以上ゾンビーがうろついて水を汚染させるようでも困るだろう。
「兵や冒険者が定期的に回っていますから本来アンデッドがいてはいけないんですけどね。どうしても取りこぼしが出るのでしょう」
気を抜けないけどあまりに出てこないので気が緩む。
そうこうするうちに水路の最上流までたどり着いた。
ここまで出会ったのは数体だけだ。
「いないね。どうしよう?」
「他の支流に潜んでいるのかもしれません。一度戻りながら他の水道を探してみましょう」
ニコラの指示のもと私たちは元来た道を戻り始める。すると支流の方で何かが光った。何かがいる?
「貴女も気づきましたか。何かいますね」
「ニコラでも正体がわからないの?」
「ええ、だいぶ隠密に長けたもののようです」
森の中よりは見通しが効く。
索敵もしやすいはずなんだけどそれでも正体がわからない。
敵か味方か。いや味方のわけはないか。
不気味な気配は支流の方へと移動していく。私たちは後を追うことにした。
「罠の可能性がたかいね。引き返す?」
モディは私と少女の安全を考えそう発言した。しかし少女は首を振る。
ここまで来たらもう進むしかない気もする。
「アンデッドにこんなことできるのかな?」
「ええ、おかしいです。何者かの思惑が感じられますね。相手は亡者だけとはかぎりません。気を付けて進みましょう」
ランタンの光だけが先を照らす。敵に居場所を知らせてしまうが構わない。
暗闇の中で戦うよりも見えている方がいいに決まってる。
「ここは、大井戸の間ですか」
行きついた先は大きい井戸の底。
各支流が合流して水をたたえる大きな泉だった。
頭上に空いた穴から月明かりが注がれ水面を照らし幻想的な光景を作る。
「泉に落ちたらまずいですね」
「そうですね。ステラはともかく私とお姉様は防具のせいで泳げません」
二人は金属製の装備をしている。もし水に落ちたら泳ぐのは難しい。
こんなところで戦闘になれば危険だ。
早く別の支流の浅瀬に移動したい。そう思った時だ。
「やっぱり罠ですか。全員伏せて」
矢が飛んできた。それをニコラとモディが剣で払う。
次々と矢がいられるが二人の前にそれは効果がない。
「どうやらアンデッド狩りではなく悪人狩りになりそうです」
「これ嵌められたんですかね。この子に」
モディの視線は少女に向く。疑念の視線。
私はその前に立って両手を広げる。
「ちょっと疑うのはやめたげてよ」
「でも状況的にその子の話には矛盾があるよね?」
「いいんだこんなことになるとは思わなかった。疑われても仕方ない」
少女はそう口にする。震えている。怖いのかも?
私は振り返り少女を抱きしめる。
「大丈夫。何とかするから」
私はそう声をかけた。かちりと音がする。
「ばーか。このお人よしが!」
少女は私の首に腕を回し拘束する。そして魔導弾の銃口を私のこめかみにあてた。
少女は耐えられないという表情で笑い出す。
「どんだけお花畑なんだよお前。強盗する子供がいい子ちゃんの分けねえだろうに。コロッとお涙ちょうだいな話に乗せられて。笑いがこらえられなかったぜ」
少女はがらりと雰囲気を変える。暗い地下水道に少女の笑い声が響く。
「ス、ステラ。大丈夫ですか?」
「動くなよ。こっちが引き金を引く方が早いぞ?」
「く、卑怯な」
「あははぁ。こうなれば剣姫様もかたなしだな」
ニコラは私が人質に取られて動けない。
私も突然のことに声が出ない。
その様子にモディはふうと溜息を吐いた。
「お姉様。もうこの茶番に付き合うのはやめでいいですか?」
「モディ。待ってください」
「打つなら打てば。私にはどうでもいいから」
モディは無造作に少女に近づく。モディは私のことを見捨てる気だ。
「お、おい動くな。本当に撃つぞ」
「モディ、やめてください」
「お姉様、新しいペットは私が用意します。諦めてください」
「駄目です。そんなことしたらステラが」
「炎よ。燃やせ」
ニコラの悲鳴。モディは私ごと少女を火の海に沈めた。
赤に染まる視界。炎に焼かれ少女は驚きの顔を見せた。
火を払おうとじたばたともがく。地面に転がって消そうとする。
だが熱を生み出さない火はいっこうに消えない。
「ニコラもモディも演技上手いな~」
私は炎の中にいながら笑う。熱さは感じない。
私の言葉にニコラは苦笑を返す。
モディは小さく舌を出す。
なぜならこれは全部幻だから。
「さてと悪者がりはじめようか?」
私たちは不敵に笑った。
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