第14話

 そう言えばこの世界の物価の平均がわからない

 取り敢えずほぼ紙幣で出回っていること。

 一日の稼ぎとしては300で何とか三食食事にありつけるぐらいという事しかない。

 その紙幣の通貨の読み方も聞いてない。


「単位はミャーレルです」

「みゃー、みゃーめる。みゃーねる?」


 誰だよこんな言いにくい通貨にしたやつ。

 ミャーミャー言いにくいわ。

 正解は、例の王国の王らしい。

 もう死んでるらしいけど、その子供は今も健在で国のトップという。

 世襲とかやっぱろくなものじゃない。


「まずは傷薬と魔石を売りに行きましょう。広場に誰でも開ける市場があります」


 ニコラの案内で三人でそこに向かう。モディは領主とのつなぎ役でしばらくは私たちの護衛兼見張りが仕事になったらしい。

 買い物や市場での売り上げもきちんと監視するという。

 まあ、正体がばれないように彼女も一応は人に紛れるのに必死なのだろう。


「お、おい。剣姫様じゃないか?」

「周りに侍らしてる少女は誰なのでしょう。可愛らしい少女が二人、私もあそこの間に入りたいわ」


 市場にニコラが現れると周囲がざわつく。

 私とモディのことを遠巻きにじろじろ見てくる視線が気持ち悪い。

 それでも、持ってきた敷布の上に商品を並べていく。

 売れてくれないと買い物にも行けない。先立つものが必要なのだ。


「さあ、ここにあるは剣姫様手ずから作りし傷薬。あるいは乙女の心の籠った傷薬」


 なんとなく詐欺っぽいけどニコラの作ったものも数個混ざっている。

 全くの嘘ではない。


「その効能は小さな怪我ならたちまち癒す。一個10みゃーれるのお買い得」


 ちょい安く設定しすぎではと言ったのだけどまあ、最初だから評判をあげるのには必要出費でしょうとのことだった。

 あっという間に人に囲まれる。その圧に圧倒されてやっぱ怖い。


「ちゃんと一列に並んでくださいね。こちらは店員が三人ですから」


 ニコラの指示に皆従う。手をすり合わせ拝みだした老婆さえいる。


「あの、剣姫様を拝みだした人たちは何?」


 ただ、薬を売りに来ただけでこの人だかり。

 しかもその様子が何だかやばすぎる。何かやばい宗教染みてて超怖い。


「あれ、知らないんだ。龍を切り倒した英雄だからものすごい町の人には支持されているんだよ?」

「やめてください。彼女が殺されて一番荒れていた時期の話です。自暴自棄だっただけですよ。今の私じゃとてもまねできません」


 モディはそういうことをサラリと言い出した。以前も聞いた話だ。

 ドラゴンを多分魔法も使ったにしろ斃したニコラもやっぱり怖い。

 五年前に魔女が殺されてすぐの偉業らしい。


 今じゃたぶん無理とか言ってるけど嘘だね。

 亡者狩りの方は必要だからやってるに過ぎない。

 蘇生魔法の実験には相当量魔石を使うらしいのだ。

 私が使い物にならないとその計画にも支障が出る。


 あっという間に持ってきた薬と魔石は売り切れてしまった。

 しめて九百ミャーレル。三人で割ると何とか食費一日分。

 

 私にいたってはニコラに二割渡すから一日分の食費にも満たない。

 はっきり言って一日の売り上げとしてはひどく安い。


「おい、お前。今日の稼ぎをすぐに出せ。それで見逃してやる」


 そんな金額とは言え、広場で金勘定はやめればよかった。

 ちょっと近くの露店を覗いていると、背中に刃物を突きつけられる。

 私は強盗に会ってしまったのだ。

 賊は私とそうは変わらない年頃の子供だった。


「有り金全部で命だけは見逃してやる」


 ニコラとモディの二人が接客に意識の向いている隙を突かれ、薄暗い路地の奥に連れ出されてしまったのだ。

 

「(た、助けて。ニコラ~。モディ~)」


 大声を出したら痛い思いをするのは明白。ニコラたちを呼べない。

 さすがに殺されはしないだろうけど……

 そう思っておとなしくその子の命令に従う。


「お前、剣姫とはどういう関係だ?」

 

 広場から十分離れたところで強盗の子はそう訊ねてきた。


「ニコラとは仕事仲間だよ」

「アンデッドを狩っているのか?」

「そうだよ」

「お前みたいなチビがか?」


 私の言葉に少しだけ戸惑いが見えた。

 それでも刃物片手にすごんでくる。


「お前、強いくせになんでついてきたんだ?」


 本当は魔法を使えばどうにでもなった。でも手加減がわからない。

 うっかり殺してしまっても嫌だからおとなしく従ったのだ。


「そっちこそなんで剣姫の関係者をおそったのさ。どう考えてもやばい相手でしょ?」


 私の方も疑問だった。私よりもお金を持っている相手はいる筈だ。

 ましてや剣姫を怒らせたら手ひどい報復を受けるとは思わなかったのだろうか?


「魔石が欲しかったのさ。お前のその杖魔石だろ?」

「そうだけど、高出力の魔石だから普通の人には使えないよ?」


 先日のアストラルから作った杖だ。

 出力が強いので魔法を使うには本来向かない。

 その分長持ちするのとアンデッド狩りには強力な魔法が必要だから使っているに過ぎない。もう少し小さいのの方が取り回しには優れている。

 値段も大きいからと言って特段高いわけじゃない。


「魔法が使いたいんだよ。アンデッドを倒したいんだ」


 強盗はそういう。


「だったらこんな回りくどいことしないでニコラに直接頼めばいいのに」

「聞いてくれると思えない。それに金もない」


お金はそんな気にしなくてもいい気がする。

ニコラの目的を考えるとお金はあんまり関係ない。


「ならなおさら普通に頼めばよかったのに」

「そうですね。話ぐらいは聞いたでしょう」


次の瞬間、強盗の子の背後にニコラがいた。

本当にニコラってすごいな。足音一つたてずに回り込んできた。

一瞬で手にしていた刃物を取り上げる。


「ちょっと、手荒なことはしないであげてよ」


ニコラたちが来るのはわかっていた。道しるべの魔石を私が持ているからだ。

森ではぐれた時合流できるように持たされている。場所を知らせる魔石だ。

私の言葉にニコラは従うとその子の手を離した。

強盗の子は少し抵抗したがすぐにあきらめた。


「詰め所に突き出すぐらいなら殺してくれ」

「お断りです。魔女の血も安くはないのですから」


ニコラは脅す口調で言った。私だったら泣いちゃうね。

それでもその子はじっとニコラの瞳をにらんでいる。


「貴女みたいな女の子がアンデッドを倒したいとはどういうこと?」


この子、女の子だったのか。モディもやってきて少女に訊ねる。

モディは優しいお姉さんモードで少女に話しかける。


「お姉ちゃんを眠らせたいんだ」


そう言うと少女は泣き出した。

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