最終話 ゼッタイ、ずっと忘れんし!

 次なる街を目指して、朝日が差す山道を馬で駆けていた友乃。風を切って進むその姿は、もはやすっかり戦国時代に馴染んだ「暴れん坊ギャル将軍」とでも言うべき貫禄だった。


「よっしゃー!次はどんな出会いあるかな〜?」


 と、軽やかに声を上げたその直後――馬が急にピタリと脚を止めた。


「え?どしたん?バテた?」


 不思議に思いながら前を見ると、そこには見覚えのある、ぽっかりと開いた黒い穴。まるで空間をくり抜いたように、不気味で静かな存在感を放っていた。それは、彼女がこの戦国時代に飛ばされてきた、あの“時の裂け目”と同じだった。


「……マジか。また開いたんだ……」


 静かに馬から降り、穴の前まで歩く。友乃は足元に視線を落としながら呟いた。


「次いつ開くかとか、マジ謎すぎるしな〜……うん、そろそろ帰ってもいいかも。」


 ふと横を見ると、今まで共に旅してきた馬がこちらを見ていた。名前もつけずにずっと走ってくれた相棒。友乃はそのたてがみを撫でて、笑った。


「てか、名前つけてなかったじゃん!ゴメンね、馬ちゃん。でもホントありがとね。めっちゃ走ってくれてさ〜、ウチ、めっちゃ助かったし。野生に戻っても、あんまヤンチャすんなよ?」


 そう言って、馬の背をポンと叩くと、馬はひとつ鼻を鳴らし、山の奥へと静かに歩いていった。


 友乃は最後に空を仰ぎ、大きく深呼吸してから、穴の前に立った。


「我が戦国ライフに一片の悔いなしっ!さよなら戦国時代!そして――こんにちは、マイスイートホーム!」


 勢いよく穴へと飛び込み、目を閉じる。その瞬間、空気が変わり、重力の感覚もゆがみ、友乃の体は再び時の狭間を駆けていった。


 次に目を開けたとき、彼女は自分のベッドに倒れ込んでいた。


「……え?ここ、ウチの部屋!?」


 跳ね起きて周囲を見渡すと、いつもの家具、ポスター、プリクラの貼られたドレッサー。窓の外には、見慣れたビルと電線と、喧騒に包まれた現代の街。


「マジで……帰ってきたんだ……!」


 胸の奥にこみ上げるものを感じながら、部屋の片隅に目をやると、そこには戦国時代で手にしたものたちが残されていた。櫂の欠片、絹織物の端布、数本の馬のたてがみ。


 一つ一つ手に取るたびに、景勝の静かな笑顔、政宗の茶目っ気のある声、戦った侍たちの顔、助けた人たちの涙が鮮明に脳裏に蘇った。


「政宗のずんだもち……まじで神だったなぁ。あれ、今のスイーツガチ勢にも食べさせたいレベル。景勝もほんと義理堅くて、イケメンすぎたし……」


 そう呟きながら、布団にゴロンと寝転がる友乃の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。


 そして翌日、学校に登校した友乃はさっそくクラスで「ウチ、戦国時代行ってきたんだけどー!」といつものテンションで話し始めた。


 だが、案の定――


「またまた〜、夢でも見たんでしょ?」


「はいはい、妄想乙〜」


 みんなの反応は信じてない様子。でも、友乃はまったく動じなかった。


「ま、信じなくていーけど?ウチの心には、ちゃんと残ってるし〜。それで十分っしょ?」


 机に肘をつきながら、教室の窓から空を見上げる。あの時の青空と、今の空が重なって見える気がした。


「またあの時代に戻れること、あるかもね。そしたらもっといろんな人助けて、もっと戦国ギャル極めてくし!」


 そう心に決めて、友乃は再び前を向いた。


 たとえ現代に戻ってきても、彼女の中のギャル魂は変わらない。人を助けたいという想いも、戦国で学んだ勇気も――全部、今を生きる自分の糧になっていた。


 こうして、戦国と現代をつないだ唯一無二のギャル、友乃の物語は幕を下ろすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦国ギャル道、邁進いたーす! 飯田沢うま男 @beaf_takai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ