第2話 ずんだずんだ〜。ずんだずんだずんだ〜ぁぁ〜。
町人の助言を聞いた友乃は、普通であればその通りに武士や商人に順々に話を聞いていくべきところだが、彼女はそんな遠回りはしない。ギャルの流儀は常に直感と勢いなのだ。
「ウチ、待つのとか超ニガテなんよね〜。ってことで、レッツ直行!」
挨拶だけはちゃっかりこなしたものの、情報収集には興味を示さず、そのまま町を抜けて城へと突き進んでいった。途中、武士に二度見されながらも怯まずに進み、ついに伊達政宗が住まう仙台城の門前にたどり着いた。
高くそびえる城門の前に立ち、彼女は堂々と声を張り上げる。
「たのもー!伊達政宗お手製のずんだもちを食べさせてたもれー!」
その一言で、城の空気は一瞬にして凍りついた。通行人や見張りたちは驚きに目を見開き、何事かとざわつき始める。
門の前に立っていた屈強な見張りの武士が、顔をしかめて一喝する。
「そこの女!政宗様は菓子職人ではない!戯けた真似をしていると討ち取るぞ!早々に立ち去れ!」
しかし、もちろんここで引き下がるような友乃ではなかった。
「はぁ〜!?なにその下っ端対応!ウチが誰に会いに来たかわかってんの!?政宗にずんだもち食べさせてもらうまで、絶対帰らんからなー!」
その堂々とした態度に、見張りも押され気味になりながらも応戦する。「ふざけるな!貴様のような者、城に入れるわけが――」
その時だった。城の奥からゆっくりと歩いてくる一人の男がいた。片眼に眼帯をつけ、上品ながらも凛とした威厳を放つ姿。まさに戦国の独眼竜、伊達政宗その人である。
彼は散歩に出ようとした矢先、門前の騒ぎに気づき、足を止めて様子を見に来たのだった。
「何事だ?」
その声に見張りは顔を青くし、すぐに頭を下げた。
「政宗様!申し訳ございません!この奇抜な風体の女が、無礼にもずんだもちを――」
すると、すかさず友乃が前に出て、政宗に向かって叫ぶ。
「うぬが伊達政宗か!?ちょっとでいいからウチにずんだもち食べさせてたもれー!」
その直球すぎる物言いに、政宗は思わず目を見開いたが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「面白い娘だ。何故、我がずんだもちを求めるのだ?」
友乃は迷いなく答えた。
「だってせっかく戦国時代に来たんやし、あんたのずんだもちがバチクソ美味しいって聞いたから!味わわずに帰れるかっての!」
政宗はその勢いと正直さに興味を深め、少し思案したのち、頷いた。
「よかろう。ついて来い。丁度、材料があるゆえ、そなたに作る過程も見せてやろう。」
見張りたちは驚きの表情で政宗を見るが、彼の決断に逆らう者はいない。友乃は勝ち誇ったようにウィンクをし、「やったー!」と飛び跳ねた。
城内に入った彼女は、その荘厳な造りに目を奪われる。
「うっわ……マジで城じゃん。眩しすぎて『目が、目がぁああ!』ってなるわコレ!」
政宗はそんな彼女の様子を面白そうに見つめながら、厨房へ案内し、自らずんだもちを手際よく作り始めた。
「さあ、これが我が手によるずんだもちだ。遠慮なく味わうがよい。」
差し出された一口を、友乃は大事そうに頬張った。その瞬間、目を見開き、叫ぶ。
「なにこれ、マジでうまっ!ウチ、枝豆とかずっとナメてたわ!めんごめんご!インスタ載せたい〜……って、あ、無理か。」
政宗はその言葉の意味はわからなかったが、彼女の率直な喜びに満足そうに頷いた。
「そなた、不思議な娘だ。だが、その真っ直ぐさは嫌いではない。戦国の世を楽しむがよい。ただし――次は礼儀を弁えて来い。」
「ラジャー☆ ウチ、戦国でもギャル道まっしぐらだから!」
明るく笑う友乃に、政宗も思わず笑みを返した。そしてその日、仙台城は“人語を解する物の怪”の話題で持ちきりとなったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます