第1話「魔物の森の人狼姉弟」

【魔物の森】

人里から離れた森林区域、竜核のエネルギーが何らかの瘴気に当てられ負のエネルギーと変化。その影響でその区域にもともと生息していた環境や生物を狂化させ変異させそれは恐ろしい魔物に成り果てる事になっていた。

そんな場所に二人の人狼がひっそりと今も暮らしている。

竜核のエネルギーは惑星ゼロ全体に根のように張っている魔物がいるのはここだけではないのだ。


早朝、森の日当たりのいい場所にガッチリとした木材で建てられているログハウスから獣耳をピンと立てぐーっと背伸びをする人狼娘が扉を開け外へ出てくる。


「んー!!今日もいい天気だね!よーし!がんばるぞー!おー!!」


腕に力を入れに気合十分にでてくる彼女の名前は【黒上いぬこ】人間と獣人【狼】のハーフ。

彼女には弟がいる。

いぬこの後に続きもう1人ログハウスから出でくる人狼の青年彼の名前は【黒上いぬお】だ。

いぬおは、陽の光を浴びようとあくびをしながらまだ眠たそうに目をこすりいぬこに挨拶をする。


「姉貴…おはよ…姉貴はいつも元気だな…」


「元気はさんもんのなんたら?だっけ?そういうことなのさ!」


「三文の得…じゃないか?」


なにげにツッコミを入れるいぬお。頭の回転は機能しているらしいが、いぬおのまだまだ夢の中と言わんばかり顔を見て姉であるいぬこはくすくすと微笑んだ。


「眠そうだね。いぬお?ちゃんと寝たの?」


「寝たよ…寝た寝た…。」


適当に相槌を打つように言葉を返すいぬお。

いぬこはいぬおの手を引いてそのままぎゅっと抱きしめてみせた。

心地がいい感触と共にいい香りがいぬおの嗅覚を刺激する。


「んっ!?あ、姉貴!?」


いぬおの反応を見てニヤニヤと顔を歪ませるいぬこ。

どうやら楽しんでいる様子らしい。


「ふふふ。こうすればいぬおすぐ元気になるよね?」


いぬおはハッとしていぬこの拘束から放れる。

少し惜しい顔をしながら名残惜しそうな顔をしながらいぬこの胸を少しばかり凝視してしまう。

いぬおの視線に気が付いたのかいぬこがいぬおに告げるのだった。


「もっかい抱きしめてあげよっか?」


いぬこが両手を広げておいでおいでの姿勢で構えるがいぬおはそれを断る。


「バカ言うな!俺ももうあの頃の…ガキの頃みたいに甘える俺じゃねぇよ!」


その言葉に獣耳をヘタっとわかりやすく下げてテンションが下がってしまういぬこだった。

その光景を見たいぬおが罪悪感に襲われ苦悩していた。


数十分後


身支度を整えたいぬこといぬおはログハウスを後に江野町方面(商店街)へ森を進んでいく。

今からいぬこたちは商人から依頼を受け、江野町商店街へ魔物から剥ぎ取った素材を納品する為に向かうのだ。



「今回結構いい素材が採れたし喜んでくれるといいね」


「そうだな。でも、多く取りすぎたんじゃないか?」


「まぁ…多くて損はしないでしょ?だって商人さんなんだから…それに…」


会話の途中姉のいぬこはニヤリと目を輝かせる。

いぬおはなんとなく察した。


「おまけがもらえるかもって…思ってるのか?」


因みにいぬこが言う【おまけ】とは追加報酬の事だ。

ごくごく稀だが想定以上の納品をすると商人から感謝と共に上乗せの追加報酬(金品、食材、特殊道具)が、貰える。

ハッとしたいぬこは我に返り、自分ががめつい女だと思われないようにはぐらかす。


「そ、そんな期待はイチミリモナイヨ。」


いぬおはそんな姉の横顔を横目で見る。


(………………。)

目が泳いでいる。

圧倒的に嘘だ…こいつ嘘をついている目だ。

わかりやすいな。


いぬおは呆れたようにため息をつくと表情を柔らかくし姉に微笑みかけた。


「おまけもらえるといいな。」


いぬこはその返しに笑顔で返事を返す


「うん!」


そんな他愛の無い会話をしつつ森を進んでいくいぬこ達だったがこの時はまだ知らなかった。

二人の後を黒い影が静かに身を潜め狙いを定めていることに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る