アノトキノボクラ

鈴乱

第1話

『これ』


 僕がつかんだ物を見て、母様が呆れた顔をする。


「それはお店のだからね、雑に扱っちゃダメよ〜」


 どうやら、母様には僕の気持ちは伝わらないらしい。


 ……今は、それでいいんだけど。


『これ』


『それから、これ』


『あと、これも』


 僕の示す物を見て、母様がやれやれといった顔をする。


『んもー、伝わんないなー』


 僕は教えてあげてるのに。


 母様は、この色。


 で、生まれてくる妹は水色。


 そんでそんで……今いないけど、父ちゃんは、この色。


『……かぞく』


 僕の、かぞく。


 色も形も違うけど、でも、その全部がかぞく。


 僕の選んだ、一番の、かぞく。


 どこのかぞくにも負けない、さいっこうのかぞく。


『ほんとにもー。母様、鈍感すぎ!』


 僕がれていたら、近くにいた兄ちゃんがニヤニヤ笑う。


 まるで、"俺には全部お見通しだぜ " とでも言うように。


『あー、もー。また変なのに目ぇつけられてる。母様、あれあれ、あいつ』


 教えてあげてるのに、母様はニコニコ笑って見ているだけで、ちっとも僕の真意に気づかない。


『んもー! 母様、気づいてよ〜!!』


 椅子に座った兄ちゃんが、今度こそ腹を抱えて笑い出す。


 ホントにムカつく。


『……いつか、僕が言葉を覚えたら、全部全部一網打尽にしてやるんだから!』


 僕は決意したんだ。


 僕の力で、『ぼくのかぞく』を守っていくんだって。


 あの日の何気ない瞬間に、心に決めた。


 それが、僕の夢の大元。


 大元、なんだよ?

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アノトキノボクラ 鈴乱 @sorazome

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