第8話

 人間族の動向を窺いつつ、村の防衛を固めていく。


 まずは、罠である。


 蔓草を使った拘束系の罠に、毒ネズミの毒を使った弓の罠などを仕掛けて、防衛戦に特化した構造を作っていく。

 それに、聖具も新たに量産することにした。


 『聖具生成——普通の弓——』


 弓を大量に作り、矢も作りあげる。鏃も矢羽も木と葉でできているせいで、人間に対する殺傷力は限定的ではあるが、モンスターを嗾けられたときには力を発揮するはずだ。


 聖具によるモンスター狩りもみんな積極的に行ってくれていて、俺は徐々にレベルアップしていった。


 塀の増設なども行い軍備を増強している一方で、人間族の話し合いは紛糾しているようだった。


「ではどうしろと!?」


 人間族の王国の使者らしきものと、軍人たちの部隊が話し合っているが、一向に答えは出ない様子だ。


「ユグドラシルの若木が本当にあるならば、接収するべきだ。獣人族になど管理させていられるか!」


「そもそもユグドラシルの大樹が枯れたのは我々人間が原因でしょう。これで若木まで枯らして本当に世界が滅ぶことになってしまったらどうするのです」


 隊長とやらは少しは話がわかる人らしく、使者に対して言い返していた。


「ならば、みすみす獣人どもにユグドラシルを管理させようというのか!」


「管理という発想がおかしいのです。本来ユグドラシルは尊ぶべきもの。それを人間が管理するなどという発想で扱うから、大枯れを引き起こしたのではありませんか」


「ええい! やかましい! お前は黙って王国の方針に従っておればいいのだ。次の指示はまた会議を行ってからとなる! それまで獣人村の調査を進めて待て!」


 王国の使者とやらは怒鳴りながら去っていった。


 うーむ。軍の隊長らしき人物は話が分かりそうなんだが、王国の方はちょっと厳しそうか?


「さて、どうしたもんか。国の上層部は本当に話がわからん奴らばっかりだからな」


 使者が帰って行った後、隊長はぼやいていた。


「そんなこと言って、聞かれでもしたらやばいっすよ、隊長。……にしても、本当に戦いは避けられないんでしょうかね」


 部下たちは不安そうに顔を見合わせている。森の中の鳥もざわめき、落ち着かない様子だ。

 

「うむ、それが問題だ。……実際、ユグドラシルの大枯れは人間族の国が我先にとユグドラシルの力を吸い上げたのが原因と言われているからな。また同じようなことになっては事だ。我が国がユグドラシルの力を独占しようとすれば、再び争いは避けられなくなるだろう」


「ですが、だからと言ってどうしたら……」


「我々に出来ることは少ない……。上が賢明な判断を下すことを祈るしかないか」


 隊長は物思わしげに打ち沈んでいる。


 ゲームの世界だと、若木発見以降その領有権をめぐって世界大戦が起きた後、最終的に冒険者システムが出来上がったという歴史になっていた。


 できれば、世界大戦などという事態に発展するのは避けたい。冒険者システムを先に確立できればいいんだが。


 だが、事態は悪い方向へ進んでいった。


「リル村の大規模襲撃、ですか……」


 再びやってきた王国の使者は、隊長に対してそのように告げていた。


「ですが、リル村の戦力は想像以上に大きいです。討伐難易度Bクラスのトレントも居ます」


「だが、ユグドラシルの若木を放置するわけには行かない。若木があれば、我々の食糧難も解決できるのだろう!」


「だからそれはリル村と協力して……」


「お前がなんと言おうと、これは上の決定だ。これより増援を派遣するゆえ、指揮官の指示に従え!」


「は……」


 隊長は苦渋の表情で頷いた。


 ああ、やっぱりこうなってしまったか。

 この世界の人間族も、地球と大差ない。強欲で、独善的。だが、中には隊長のように思慮深い人間はいる。そういう人間とまで戦わなければならないのは、忸怩たる思いだ。


 なんとかできないものか。


 モンスターを嗾けてきた恨みがあるとはいえ、民のために厳しい判断を余儀なくされているこの隊長殿を倒す気にはどうしてもなれなかった。


 ——それならば。


 彼と直接交渉して、寝返らせることはできないだろうか。少なくとも、冒険者システムの説明をすれば、考えてもらえる余地はあるはずだ。


 問題は接触する方法。


 村人を危険に晒すことはできない。ユグを使って接触することはできるが、あまりにも怪しすぎるだろうか?

 

 

 

 

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