あの夏の記憶、君との思い出

春川楓

一章

夏の始まり

入道雲がすぐそこに見えた。


もうすぐ夏休みか…


私は心の中でため息をついた。


夏休みといえば、大抵の学生は喜ぶものかもしれないが、私は嫌いだ。


まず私には仲のいい友達がいない。


中学の時まではいつも一緒にいた友達がいた。


しかし、その子は親の仕事の都合で海外に行ってしまった。


会いにいくことも考えたが、外国まで行くお金は、高校生にとっては高額だ。


そして私の両親は仕事が忙しく、遊びに連れて行ってもらった記憶は今までない。


祖父母もすでに他界しており、一人で家にいるしかない。


この夏がやることといえば、勉強か読書くらいだ。


「…先生からは以上だ。くれぐれも事件や事故、怪我などすることがないように」


そう締めくくって、担任の先生は教室を出て行った。


ホームルームが終わり、クラスメイトたちが次々に立ち上がった。


友人たちと、夏休みの予定について話しながら楽しそうに帰って行った。


誰もいない教室で、しばらくぼーっとしていた。


「…帰ろ」



こんなことをしているのが馬鹿馬鹿しくなり、スクールバックを肩にかけて教室を出た。


教室から廊下に出ると、運動部の掛け声、吹奏楽部の演奏、楽しそうに話す生徒の声が聞こえてきた。


「はぁ…」


廊下の真ん中で大きくため息をついた。


中村なかむら…?どうしたの?ため息なんかついて」


まさか人がいるとは思わず油断していた。


目の前にいたのは、同じクラスの浅川響あさかわひびきだった。


「明日から夏休みだって言うのにテンション低いな」


別に夏休みに入るからって全員がテンションが高くなるわけではない。


「具合でも悪いのか?」


心配そうに顔を覗き込んできた。


「そんなんじゃない。浅川くんこそ、どうしたの?」


「あ、そうだった」


思い出したように、急いで教室に入った。


「忘れ物取りに来たんだった」


机から一冊のノートを取り出した。


「中村、暇なら、この後少し付き合ってくれない?」



なんでこんなことに…


浅川くんに連れてこられたのは、ファストフード店だった。


向かいでは、浅川くんがハンバーガーを頬張っている。


「中村、お腹空いてなかった?」


注文した商品に全く手をつけていない私を見て、浅川くんが聞いてきた。


「そう言うことじゃなくて…」


私は前のめりになって言った。


「なんで私が浅川くんと一緒にハンバーガー食べにこなきゃ行けないの?」


浅川くんは、ハンバーガーを飲み込んでから口を開いた。


「実は中村に頼みがあって…」


急に真面目な顔をした浅川くんに驚きながらも私は言葉の続きを待った。


「俺と付き合ってくれない?」

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