死神の働き方改革
異界ラマ教
第1話
真夜中の灰色の空の下にある薄暗い集会所。
黒衣の死神たちがずらりと座り、鎌を床に立てかけていた。
会議の議題はひとつ───働き方改革である。
「───そもそも我々は死神なんて名前で呼ばれているが、もうちょっとこう……柔らかい呼称はないのか?」
腕を組んでいた死神が呟く。
周囲からも賛同の声が上がる。
「たしかに。我々が死なせてるわけじゃないのに死の神なんていうのは不適切だ。彼岸コンシェルジュなんてのはどうだろう」
「賛成!」
議論は更にヒートアップしていく。
「そもそも支給品の鎌がデカすぎる!黒衣もダサい!軽量化して私服OKにしましょう」
比較的若い死神の意見だ。
みんな確かにと頷く。
「休みが欲しい……。せめて週休二日を……!」
堰を切ったように死神たちの不満が爆発する。
議論は数日に渡り行われ、やがて議長を務める死神が咳払いをした。
「では試験的に死神の名称を彼岸コンシェルジュに変更し、鎌は軽量化、私服出勤自由。週休二日制を導入する」
死神たちは大いに喜んだ。
───そして数日後。
洋画好きの死神は映画を見ていた。
画面では裏路地で瀕死のギャングが血の海に倒れて呟いていた。
「ふっ……俺も彼岸コンシェルジュに目を付けられちまったみたいだぜ……」
死神は無言でテレビを消した。
若い死神は私服で今日が寿命の老婆の元へ向かった。
すると老婆がにっこりと笑顔を浮かべた。
「あら、草刈りかえ?助かるねぇ、お茶でも飲んで行きなさいな」
若い死神は断ることができず結局半日老婆の世間話に付き合わされた。
休日を満喫した死神が出勤した。
「田中さんが地獄で斎藤さんが天国!?キャサリンさんが虚無で───え!?リストが間違ってる……!?」
行き先を失った魂が渋滞を起こしていた。
死神はどこから手を付けていいのか分からずしばらく途方に暮れていた。
───やがて再び死神たちが集会場に集まった。
誰も何も言わず鎌を手に取り黒衣を羽織り夜の闇を駆けていった。
死神の働き方改革 異界ラマ教 @rawakyou
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