笑顔

初めて買ってもらった習字道具が嬉しかったらしい

弟はなんにでも墨汁で笑顔を描いていた

壁や障子に落書きをした時には雷を落とされていたが

父母は割合寛容な人たちだった


祖母を荼毘に付す前夜

白い布をかぶせられたその顔にも 弟は落書きをしてしまった

子供の手で描かれた単純な線 満面の笑み

分厚い布団の下に寝かされた冷たい体が 動いたように見えた

弟の肩をつかんで 祖母の傍から引きはがす


墨を頬につけた無邪気な犯人は

おばあちゃん また話そうねえ

手を振り 手を振り それへ今にも亡骸が応えてしまうのではないかと畏れて

ぴしゃんと 襖を閉じた

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