おぞまし

空空

緑の空き瓶

空き瓶を並べて売っている

あの店は芥に値段をつけている

母様がそう云うから

わたしはそのまま云ってみた

あなたのお店は芥に値段をつけているの

店主は澄ました顔で緑色の硝子瓶を手に取った

お嬢さんにはこれをあげましょうね

あたしの売るのが芥なら

お嬢さんが持ってるものみんな芥さ


徳利みたいな硝子の瓶

中身はなんにも入ってない

振ったり 覗いたり 放ったらかしたり

瓶はやっぱりただの瓶

母様に知れると罰が悪いので

わたしは引き出しの奥へそれを隠した


母様に隠し事をするのはそれが初めてだった

たまに取り出して眺めては 店主の言葉を思い出す

これが芥なら みんな芥

死んだらあの世へなんにも持っていけないんですからね

燃されるのを待つだけなら

すべて芥じゃあないですか



少女は家の窓から一切合切を投げ出し始めた

気に入っていたブラウス

誕生日にもらった本

憧れていた母の口紅

食器 棚 椅子 果物

驚いた母親も締め出して

なにもかもなくなった部屋の中

赤ん坊のように丸くなった

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