第56話
あの感動的な誕生の日から、さらに数年の月日が、夢のように穏やかに流れていった。
「きゃっきゃっ!フェンにいちゃん、まてまてー!」
「わん!(待てないもーん!)」
奇跡の丘の、音楽を奏でる青い花畑の中を、小さな影が二つ、楽しそうに駆け回っている。
一つは、少しだけ大きくなった、相変わらずもふもふのフェン。
そしてもう一つは、太陽の光をいっぱいに浴びたような、明るい栗色の髪を二つに結んだ、小さな女の子。俺とリリアさんの娘、ヒカリだ。
ヒカリは、俺の『生命共鳴』の力と、リリアさんの自然を愛する心を、色濃く受け継いで生まれてきたようだった。
彼女が笑うと、周りの花々が一斉に嬉しそうに咲き誇り、彼女が歌うと、森の小鳥たちが集まってきて、一緒にコーラスを始める。
そして何より、動物たちが大好きで、特にフェンのことは、本当のお兄ちゃんのように慕っていた。
そんな二人の周りでは、アカデミーの生徒たちが、ヒカリの遊び相手をしながら、優しくその成長を見守ってくれている。
人間のトム、ドワーフのギムリ、エルフの女の子、そして獣人族のミナ。様々な種族の子供たちが、何の垣根もなく、一つの大きな家族のように笑い合っている。
その光景こそが、俺がこの世界で作り上げたかった、最高の宝物だった。
丘の上での生活は、穏やかで、そして幸せな発見に満ちている。
アロイスさんは、リリアさんと結婚し、今では二人の腕白な男の子の父親だ。
錬金術ギルドの最高顧問というすごい地位にいるはずなのに、家では子供たちに馬乗りにされ、「パパ、もっと速くー!」とせがまれては、タジタジになっている。その姿は、かつての堅物なエリートの面影など微塵もない、ただの幸せな父親の顔だった。
かつて孤児院にいたアンナは、立派な女性に成長し、今ではアカデミーでリリアさんの助手を務めながら、若き薬草学者としてその才能を開花させている。彼女の淹れるハーブティーは、リリアさん譲りの優しさと、彼女自身の芯の強さが合わさった、最高の味がする。
トムとギムリが共同で立ち上げた会社は、今や世界一の大企業だ。
彼らが発明する、ドワーフの技術と人間の発想を融合させた便利な魔道具は、世界中の人々の暮らしを豊かにしている。最近では、農業を自動化する機械を開発し、食糧問題の解決に大きく貢献したらしい。
世界は、どこまでも平和で、そして優しかった。
『星の門』を通じて、失われし大陸エデンとの文化交流も盛んに行われ、先日などは、エデンの古代種の子供たちと、百獣の王国の獣人の子供たちが、俺たちの丘で合同の運動会を開いて、大いに盛り上がっていた。
俺は、そんな幸せな光景を、いつものお気に入りのベンチに座って、のんびりと眺めていた。
トムとギムリが、卒業制作として作ってくれた、世界樹の枝でできた、最高の座り心地のベンチだ。
「あなた、お茶が入りましたわよ」
隣に、リリアさんがそっと腰を下ろし、焼きたてのクッキーと、温かいハーブティーの入ったカップを渡してくれる。その優しい微笑みは、出会った頃と何も変わらない。
俺たちは、言葉もなく、ただ寄り添い、花畑でフェンと楽しそうに駆け回る、自分たちの娘の姿を目で追っていた。
ヒカリが転ぶと、フェンが心配そうに駆け寄り、その頬をぺろりと舐める。すると、ヒカリはすぐに泣き止んで、またきゃっきゃっと笑い声を上げる。その肩にはルクスが止まり、頭の上ではジュエルがキラキラと輝いている。
なんて、幸せな光景だろう。
なんて、満ち足りた時間なんだろう。
元の世界で、何の意味も見出せずに生きていた俺。そんな俺が、この世界に来て、フェンと出会い、そしてたくさんの温かい絆に恵まれた。
不遇スキルだと思っていた『動物親和EX』は、世界で一番、温かくて優しい奇跡の力だった。
リリアさんが、俺の肩にそっと頭を預けてくる。
「本当に、美しい世界になりましたわね」
その穏やかな声に、俺は胸の奥から込み上げてくる、どうしようもないほどの幸福感を噛みしめていた。
俺は、愛する妻と、愛する娘、そして、世界で一番の最高の相棒と、かけがえのない仲間たちに囲まれて、今、ここにいる。
これ以上、何を望むというのだろう。
俺は、どこまでも広がる青い空を見上げ、そして、心の底からの、満ち足りた笑顔で呟いた。
「ああ、最高のスローライフだな」
俺たちの、優しくて、温かくて、そして少しだけ不思議な物語は、これからも、この奇跡の丘の上で、穏やかに、そして永遠に続いていく。
そう、このかけがえのない、もふもふの温もりと共に。
不遇スキル『動物親和EX』で、最強もふもふと異世界のんびり開拓記 ☆ほしい @patvessel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます