潜水艦合コン

ちびまるフォイ

深海では目を光らせよう

「はあ、いい男ってなかなかいない……」


「そう言わないで。ちゃんと次の合コンセットしたから」


「え! ほんと!?」


「なんと次の潜水艦合コンは、キャプテン号よ!」


「え!? あの有名な!?」


「潜水艦クルーもイケメンに決まってるわ!」


女子だけの潜水艦の中はやにわに賑わった。

数日後、潜水艦キャプテン号が、女子たちの潜水艦に横付けする。


潜水艦で通路がくっつけられて移動ができるようになる。


「さあ、行きましょう!」


めかしこんだ女性陣は男性の潜水艦へと移動した。

そこでは飾り付けられた艦内と男性が待っていた。


「キャプテン号へようこそ! 今日はよろしくおねがいします!」


爽やかで清潔感のある男性陣。

ここで大事なのは潜水艦の艦内チェック。


潜水艦という密室スペースには隠しきれない生活感が残る。

必要以上に汚れていたりしないか。

取り繕え無い本性の片鱗は潜水艦の内側に残る。


(大丈夫、汚くない。これなら合格)


艦内からやっと合コン参加の男性陣へと視線が戻される。

やっと気づいてしまった。


「えっ……〇〇くん……?」


「よ、よお」


参加男性のひとりは元カレだった。

まだ人間が地上生活していたときに付き合って別れた元カレ。

たまらず近くの女性クルーに声をかける。


「ちょっと、元カレいるんだけど……」


「わざとじゃないわよ」


「気まずいんだけど……」


「でも今さら中止できないわよ。

 あなただけ潜水艦に戻って通路閉鎖したら

 私たちが帰れなくなっちゃうし」


「……」


「どうせ1時間くらい愛想笑いするだけなんだから今回はガマンして」


潜水艦同士の合コンはそう簡単にキャンセルはできなかった。

たった1時間としても、その1時間が辛い。


「なあ、お前……あれからどうしてた?」


「別に……」


「俺たちさ、別にお互いに気が合わなかったわけじゃない。

 たまたま当時すれ違っていただけだと思うんだ」


「めっちゃ復縁しようとしてくる!」


「どうせこの深海じゃ出会いなんてないだろ。

 だったら、変な男に捕まるより、勝手がわかる俺とーー」


そのときだった。

参加者のひとりの男性が元彼の胸ぐらを掴む。


「おいお前、ちょっと来い」


「え? え?」


元彼を潜水艦にある緊急潜水艇にぶち込むとボタンを押した。

潜水艇は勢いよく浮上してどこかへ消えてしまった。


「不快な思いをさせてすまない。

 あいつは水面にすっ飛ばしたよ」


「す、すてき……!」


「今回の潜水艦合コン、実は乗り気じゃなかったんだ。

 でも君みたいなキレイな人が来たなら話は別だ」


「そんな……///」


「どうかな。この潜水艦から、ふたりでこっそり出ちゃわないか?」


「そんなことできるの?」


「実はこの潜水艦キャプテン号には、

 海底探索用に小型の潜水艦もあるんだ」


「それなら!」


正直ほかの参加男性は魅力にとぼしかった。

でもこの人は高身長イケメンなうえ、こんなに男らしい。


2人乗りの小型潜水艦に乗り込んで、こっそり合コン会場の潜水艦を後にした。

潜水艦はボコボコとより深海へと進む。


「ねえ、どこへ行くの?」


「僕の深海基地だよ」


「この小型で行ける?」


「もちろん。耐圧も問題ないさ」


そうは言っても少し怖い。

進水するほどメキメキと嫌な音が聞こえてくる。

その恐怖が吊り橋効果となって、彼の頼もしさを引き上げてくれる。


(彼ならこの先どんなピンチがあったとしても

 今のように落ち着いて対応してくれるはず……!)


すでに心はときめきを感じていた。


小型艦は潜水を続けてついに海の底までたどり着く。

見たことのない深海植物が光を発してロマンチック。


「この景色を君に見せたかったんだ」


「すてき……!」


「見えてきたよ、あれが僕の深海基地だ」


「え、おっきい!!」


個人の深海基地なのでみくびっていたが、

海の底にあったのはまるで研究所というほどの広大な施設。


「あれ全部あなたの!?」


「そうさ。さあもうすぐだよ」


潜水艇が基地着艦する。

これだけ広い基地を所有しているということはお金持ち。

そのうえエスコートまで上手でイケメンという最高のオプション。


もうこの人を逃す手はない。

自分から告白するのははしたないかもしれないけれど、

こんな優良物件はこの先どれだけ深海を探しても見つからない。


「あの……話があるんだけど!」


意を決して声をかけた。

しかしそれは彼に止められた。


「ああ、ちょっと待って。その前に紹介が先だ」


「紹介? そんな両親に紹介だなんて……さすがにまだ気が早い」


「ちがうよ。彼女たちに君のことを紹介しないと」


「……彼女?」


耐圧スーツを脱いで基地に入った。

そこには自分の他にも基地に住んでいる女性がたくさんいた。

男性は他にいない。


「みんな聞いてくれ。今日からこの基地に新しい仲間が来た。

 名前は……えーっと、なんだったっけ?」


嫌な汗が流れた。

紹介が終わって彼が立ち去るや、基地にいた女性が急いでやってきた。


「あなたどうしてこんなところに来たの!?」


「彼に連れられて……」


「早く元の場所にもどって! もうここから出られなくなる前に!!」


「えっ?」


「私たちもあなたみたいに騙されてここに来たの。

 長く暮らすほど、この深海の圧力に慣れてもう上層に戻れなくなる。

 あなたはまだ体が適応してない。今ならまだーー」


言いかけたとき、彼は先ほどまで着ていた耐圧スーツのひとつを壊した。



「勝手なこと吹き込むなよ。ここは僕の楽園なんだから」



男の冷徹な目を見て、私はこの監獄へ来たことを後悔した。

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