第19話 姿、くらませる
窓を見つめる伊吹の目には濁った月が映っている。
彼の心はもうなにもない空洞のように空っぽだ。その隙間に悲しさだけが沈んでいる。
仲間を失った虚しさ、仲間割れしてしまった寂しさ。いろんな感情が渦巻き、瞬く間に崩れ落ちる。
「……起きていたのか。随分早く起きたんだな。」
少し遠慮するように隣に来たのは蓮だった。
しかし目を合わせようとしない。あの出来事が原因だろう。お互いに謝りたい気持ちはあるがプライドが邪魔をするように口を閉ざす。そんな時間がしばらく続き、先に口を開いたのは蓮の方だ。
「……すまなかった。俺は少しでもお前を疑ってしまった。お前がそんなことをしないのはわかっているはずなのにな。ただ…状況がそうさせてしまったんだ。お前も俺も…誰も悪くない。」
「……俺もごめん。取り乱しすぎた。」
伊吹の態度はそっけないが言葉にはきちんとした謝罪の意思が込められている。蓮は軽く微笑み優しく肩を叩く。彼の少しの温もりがそっと伊吹に触れた。
「仲間を失ったんだ。悲しいのはお前だけじゃない。仲間割れするほど無駄なことは…辛いことはないだろう。俺たちは前に進まなければならない。叶多のためにもな。だからといってあいつを忘れたりはしない。あいつは俺たちの中で生きてる。覚えている限りな。」
伊吹は頷く。その通りだと。
前に進むことは簡単なことではないが落ち込んでいる場合でもないだろう。一体何が、どんな存在が叶多を殺害したのだろうか。もしかすると他殺ではなく自殺かもしれない。様々な考えが浮かぶ中、一人の人物が思い浮かぶ。
「もしかしてクロが…」
「クロ…?なんだそれは。」
「前に話しただろ。泉に変な少年がいたって。幻覚だって言っていたけど幻覚じゃない。確かにあいつは存在しているんだ。もしかしたらそいつが叶多を…」
「…有り得るかもしれないね。僕も気になっていたよ。伊吹の見た少年が本当にいるのなら目を背けることはできないだろうね。」
話を聞いていたのか蒼乃は横になりながら会話に参加する。伊吹と蓮は蒼瀬のそばに座り小声で話す。
「本当にいるって言ってるだろ…?俺はあいつと言葉を交わしたんだ。嘘偽りない事実だよ。」
「そうか…どうやら本格的に動き出さないとダメみたいだ。ここでのらりくらりとしている場合じゃない。そいつの存在が分からないからこそ僕たちは警戒しなきゃいけないよ。」
蒼瀬の言葉に蓮は呆れた顔を浮かべる。
何を言っているんだと首を横に振り、ため息を漏らす。
「具体的にどうするんだ?伊吹以外そいつを見た事もないんだぞ…」
「それが問題なんだ。どうして広い空間じゃないこの場所で見つけることができないんだろう。彼はもしかしたら人間じゃないかもしれない。僕の憶測だけど。伊吹はどう思う?彼は人間かな?」
「いや…確信はできないけどあれは人間じゃないと思う。あの雰囲気…なにか…言葉に出来ないけどとにかく悪寒がやばいんだよ。突然現れて突然消えるし…」
「うーん…なら探すのはとてもじゃないけど難しいな…そいつが犯人なのか…それとも違うのか…どっちみち重要な人物には変わりないと思う。」
解決策がなく深いため息をつく三人。
疲労が溜まっていく一方だ。
"クロ"という人物は一体何が目的なのだろうか。
伊吹たちになにか関係があるのか、謎多き存在に頭を抱えるしかない。
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