第17話 割れる想い
血の海に沈んだ叶多の亡骸を見た蓮と雨音、そして琥珀は時が止まるのを感じる。耐え難い光景に言葉を失うばかりだ。
「そんな……叶多くん…嘘でしょ…」
「…なんてことだ……叶多…」
悲痛な雨音と蓮の声が宙に舞う。琥珀はまだ状況が把握できていないような顔で叶多の顔を撫でる。
その手つきは繊細で優しく、まるで安心させるかのようだった。
「……なぜ…叶多が……ごめんなさい……あのとき寝ていなければ…」
消え入りそうな声。琥珀はゆっくり立ち上がる。
どうしても受け入れることが出来ず一同の沈黙が続く。
「……誰が…やったんだ…?急に死ぬわけがねぇ…。誰かが…」
伊吹の視線が蓮に向く。その目には疑いが濃く現れていた。その視線を受け驚愕した顔を浮かべる。
「俺を疑っているのか…?なぜだ?なぜそう思った?俺は疑われることをした覚えはないが…」
慎重に落ち着いて話す蓮だがその声には怒りと悲しみが入り交じっていることが感じられる。
「だっておかしいじゃねぇか。近くにいたお前がなんで叶多がいなくなったことに気づかなかったんだ?何かしら音がするはずだ。足音でも、ドアを開け閉めする音でも…なのに"気づいたらいなくなってました"なんてめちゃくちゃ怪しいだろ。正直に話せよ…なんだ?恨みでもあったのか?」
「伊吹、思い込みが過ぎるぞ。俺は確かに叶多の近くにいたが、一挙手一投足を見ているわけがないだろ。俺だって目を閉じているときがある。周りの音が聞こえてないときもあるんだ。なのに俺が怪しいって?お前こそ怪しいんじゃないか?第一発見者は伊吹、お前だったな。」
蓮の言葉にカチンときた伊吹。蓮の胸ぐらを掴み歯ぎしりをする。二人はかなりの体格差だ。そのため伊吹は簡単に投げ飛ばされてしまった。床に打ち付けられる音と共に雨音の悲鳴が耳を刺激する。
「やめて……!喧嘩してても叶多くんは戻ってこないんだよ……」
「俺はやってねぇ。蒼乃と緋色と外にいたんだ。仮に俺がやってたとしたらわざわざ涙なんて流さねぇよ。第一お前らも怪しいぞ。雨音、琥珀。寝ていたなんて嘘だったんじゃねぇの?お前らみたいな大人しいやつが一番鬱憤溜めてんだろ。その鬱憤が爆発して叶多を殺したのか?」
「な、なんでそんなこと……」
酷く傷つき、ショックで泣き出してしまう雨音。蓮は再び伊吹を地面に叩きつける。最悪の状況、疑いが回る中、静かに見守っていた緋色が争いを阻止する。不満げにお互いを見ていた蓮と伊吹はそっと距離を取りながら乱れた身なりを整える。
「…証拠がないことを押し付け合いしててもなんの解決にもなりません。状況が悪くなる一方ですよ。私たちは争っている場合ではない。仲間割れがこの場の雰囲気を不安定にさせるんです。あなたたちはそれを望んでいるんですか?」
ごもっともな緋色の言葉に返すすべもない。
今、この状況はとても険悪なものだ。
「本当に緋色の言う通りだよ。今の僕たちは仲間割れなんてしている場合じゃない。そんなことをしてはいけないんだ。」
蒼乃はそういい叶多の前にしゃがみこみ、そっと手を合わせる。それに続くように一同はゆっくりと目を閉じる。どうか安らかに眠ってくれ。そう強く願う。
叶多の死を心から悔やみ、そっと涙が地面に落ちる。
その涙は月の光を受けて孤独に光り輝いては、誰からも気づかれずにゆっくり消えていった。
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